一難→また一難2 | ナノ


10分程度で迎えに来たライルの車の助手席に刹那は乗り込んだ。


「待たせたな」
「いや」
「夕飯の材料ないから、スーパー寄ってくけどいいか?」
「ああ」


ライルは機嫌よくアクセルを踏んだ。
鼻歌まで歌っている。
対する刹那のテンションはどん底まで落ち込み…やった後も大体は落ち込んでいるが、それとは種類が違った。

(そもそも、俺とライルは付き合っているんだろうか…)

浮気のことを気にしていた筈が、根本に目がいってしまう。
ライルの巧みな恋愛術(?)に流され、ずるずる流されてしまっただけではないのか。

(俺は…多分好き、なのに)

多分が消せないのはきちんと恋愛をしたことがないからである。初恋は小学生の時に近くに住んでいたマリナというお姉さんだったが、それ以外はないと断言しても問題ない。


「……刹那、聞いてるか?」
「え?…あ…」


先程からライルが何か話していたらしいが、刹那は自分の被害妄想で頭がいっぱいであった。
胡乱げにこちらを見るライルに謝り、窓の外の景色に目を移す。
ライルは何か言いたげであったが、結局車の中では何も言わなかった。







恐れていたことが、玄関に入ってすぐに訪れた。
玄関からすぐに上がった廊下に、ハレルヤの言っていた口紅…しかも使い掛けが落ちている。
ライルは気にした素振りも見せず、口紅を拾い上げた。


「あー、落としてきやがったな…」
「……」


言い訳さえもしないライルにむしろ好感を覚えるべきだったのかもしれない。
しかし、刹那は既に限界であった。被害妄想で精神的なダメージを自分自身に与えていたため、限界がはやく訪れてしまった。


「…帰る」
「は?何で?」
「何でだと?自分で考えろ!イン●野郎!」


ソーマに教えてもらった唯一の罵りに、ライルは一瞬たじろいだ。
だが彼はすぐに我に帰ったらしく、刹那の左腕を取る。


「待てよ」
「いやだ!お前無神経すぎるだろう!兄弟だけで住んでいると言っておきながら口紅が置いてあって、言い訳もなくて…!」


ライルの手を振り払い、玄関から出ようとドアに手を掛ける。
その時誰か帰ってきたらしく、ドアを開けた途端前も見ずに飛び出したのでぶつかってしまった。
硬い筋肉にぶつかってよろめいた筈だが、下に向けた視界に広がるのは、ワンピースと明らかに男と思われる足。
そのまま舐めるように視線を上げていくと、ライルと同じ顔…と思われる人間が厚化粧をしてこちらを見ていた。
女性の格好をしているが間違いなく女ではなく、男である。
刹那は茫然とする。
ライルも暫くぽかんとしていたが、決定的な一言を漏らした。


「兄さん…今日帰らないって、」
「ティエリアが風邪ひいたらしく予定変更しちゃって……えーと、もしかしてまずい時に帰ってきちゃったかしら?」


おねえ言葉で話すライル似の男に、激しく違和感を感じる刹那である。
開いた口が塞がらないというのはまさに今の状況かもしれない。
そんな刹那の様子に気付きながらもライル似の男は自分のペースで自己紹介を始めた。


「ライルの双子の兄のニールです!あなたライルのハニーかしら?それともダーリン?恋人が男っていうのは予想外だったけど…」
「……あ、お…兄さん…」


ようやく絞り出せた言葉に、自称ライルの兄のニールは衝撃的なウインクを送った。


「やだ!もうお義兄さんって呼ばれちゃった!」
「頼むから、あんたは黙っててくれ…」


ライルが本当に疲れた顔を見せたのはこれが初めてかもしれなかったが、刹那は気がつかなかった。

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ティエリアファンにも…(ry


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