一難→また一難1 | ナノ
※ニールファンは要注意。ニューハーフパブで働く男となっています。
おねえ言葉にも注意。
注意書きはしたので、文句は心の中にとどめておいてください。
時々…本当に時々だが、俺と兄さんは間違いなく双子だなと思う部分があった。
「ライルー、口紅とってー」
「ほらよ」
全身鏡の前でチャイナドレスに匹敵するスリットの入ったワンピースに身を包み、化粧をしている男…ニール・ディランディは正真正銘俺の兄だ。
もう既に慣れた光景だが、最初に「会社やめてパブ経営することにした。ニューハーフのな」と言われた時には流石に記憶をなくしたくなった。
だが人間案外図太く慣れれば平気なもので、同じ顔が化粧をして更に気持ち悪い…おほん、着飾っていても部屋のオブジェぐらいにしか感じなくなった。
それでも家に恋人は呼べないわけで。
実の兄がオカマだから…とかやはりそういう理由ではあるが、決して兄を軽蔑しているわけではない。ストレートだった筈の自分は今男に溺れているのだから全く人のことは言えないし、恥じることでもないと思っている。個性のひとつであるからだ。
だが、刹那は初というか…そっくりな顔の兄がいきなりこんな姿で現れたのを見たら、多分卒倒すると思う。
以上からライルは刹那を家に連れてこれず、専ら刹那の部屋で過ごすことが当り前となっていた。
しかし、かなり入り浸っているため少々心苦しく感じているのが現状である。
「今日も遅くなるからご飯はいらないからねー」
「分かったから、家でカマ声出すな」
「やーん。これでも常連の人たち可愛いって言ってくれるのよ?」
はっきり言って可愛くはない。百歩譲ってもその言葉は出てこない。むしろ気持ち悪い。
それでもプライベートではきちんと男…化粧はせずジーパンにシャツなので、よく二つを同時に出来るなと感心はする。
「馬鹿言ってないでさっさと行けよ」
「ライルったら休みなのに冷たい。あ、なんなら彼女呼んでもいいからね」
「はいはい、いってらっしゃい」
(彼女、じゃねーけど)
ライルは心の中で付け足し、さっさとニールを追い出した。
今の時刻は4時半だ。刹那は仕事なので早く終わるにしても6時…今の時期そんなに忙しくないから残業はほとんどないだろう。
(兄さんいねえし、あいつ明日休みだから遅くなってもいいよな。メールしとくか)
ライルはプライベート用の携帯を取り出し、「家に来ないか?」と打って送信した。
「……」
「どうした?」
たまたま一緒の時間に仕事を終えたハレルヤが、携帯と睨めっこをしている刹那に問い掛け画面を覗いた。
ハレルヤはライルからのメールを見て、何で刹那が睨んでいるのかよく分からなかったようだ。
「何で画面を睨んでんだよ」
「いや……あいつの家に誘われるのは、初めてだから」
「お前、あの人ん家行ったことねーの?」
「ああ。いつも俺の家だな…」
刹那はライルと過ごす時間を思い出してげんなりする。
ハレルヤは目敏く刹那の反応に気付き、にやにやと笑っていた。
「女関係凄かったからなー、探せば口紅とか落ちてるかもな。ついでに浮気してないか確かめてこいよ」
「浮気…?」
「してねーだろうけど。刹那への溺愛っぷり半端ねーし」
刹那は既にハレルヤの言葉が聞こえていなかった。
今まで考えなかった浮気のことが頭を過る。
そういえば最近仕事も落ち着いてきているのに、以前のようにむやみやたらに襲ってきたりしない。
(飽きた…?)
実際飽きるほどやってはいないが、刹那にそんなことを考える余裕はない。
(…棄てられる、かもしれない)
ライルは女関係がかなり派手だった男だ。今はどうだか分からないが、一人に絞ることが出来ないかもしれない。
相手に対して失礼な言い分だったが、行動が伴っているためしょうがない部分もあった。
「おーい、刹那。戻ってこい」
「……どうしたら…」
「…とりあえず、行って来い。女のもんがあったら、棄ててこい。それでも嫌だったら、お前からあいつごと棄ててこい」
ハレルヤの言葉がやっと聞こえた刹那は力なく頷き、電話をする。
すぐに迎えにくる話になったようで、少し離れたコンビニまで出ると言って切り、足早に会社を後にしていった。
「…ソーマにばれたら、ぶっ殺されるな…」
なんだかんだ言ってハレルヤの彼女であるソーマは刹那とライルのことを応援しているらしい。何故かは全く分からないが。
ハレルヤは頭を掻きながら愛しの彼女の待つ家へと帰った。
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そろそろニールファンに刺されそうだ。
…土下座します。