エピローグ | ナノ


エピローグ


刹那は目を覚ますと、最初にティエリアが驚いて、更に心配そうな顔でこちらを覗き込んでいるのが見えた。
すぐさまティエリアがカプセルを開ける。


「…ティエリア?」
「刹那…目を覚まさないかと思った…!!」


刹那の眠るすぐ側に寄りかかって、ティエリアは背中を震わせた。
ティエリアがいる。先程のように独りではない。

(そうだとしたら、あれも夢だったのか?)

刹那はとても混乱していた。
何故ティエリアが泣きそうなのか分からず、刹那は少し後ろでほっとしているアレルヤに問いかけることにする。


「…俺は、眠っていたのか?」
「君は一週間も目を覚まさなかったんだ…良かった、起きてくれて」


アレルヤが柔らかい表情を浮かべて、安心している様子だった。
どうやら皆に迷惑をかけてしまったらしい。


「…一週間か」


その間、仲間が消えていく夢を見ていたという事だろう。
刹那はティエリアを優しく退かし、力の入らない身体を叱咤して上半身を起こし謝罪をした。


「…すまなかった。トレミーの状態は?」
「大丈夫だよ」
「君は第一に自分の状態を心配するべきだ」


ティエリアは不機嫌な表情でそう言うと、刹那のカルテを取り出す。


「念のためカプセルに入れたが、身体に異常はない。…暫くは前のように動けないだろうから、徐々に慣らすといい」


ティエリアは素っ気なく言うと、アレルヤを引き摺って部屋から出ていった。
2人がいなくなり、メディカルルームがとても静かになる。
刹那は殆ど痛まない頬を擦った。
青くなっているかもしれないが、もう腫れてはいない。
心臓の痛みも、今は感じなかった。

(一週間も眠っていたのは、…俺が生み出した幻影が原因か…)


『人間だから、心はパンクするんだよ』


(俺は…お前に、頼りすぎだな)

刹那はふっと笑い、膝を立てそこに目をあてた。

(…ありがとう、ニール、エイミー。もう大丈夫だ)

刹那はこの場にいない2人に心の中で御礼を言う。
感傷に浸っている時間はない。
周りに迷惑を掛けた分も早く体力を戻さねば、と刹那はカプセルから出て自室へと向かおうとした。
メディカルルームから出ると、すぐ近くにライルが壁に凭れて腕を組み目を閉じていた。
こちらの様子に気づいているが、何も言わない。
刹那は止まって、ライルの様子を見ていた。


『…ライルお兄ちゃんを、よろしくお願いします』


(…ああ、分かっている)

刹那が心の中で頷いて声を掛けようとしたところ、ライルがこちらに振り向いた。


「…いきなり動いて大丈夫なのか」


言葉を選んでこちらを窺っているライルに、刹那は気付かない振りをした。


「ああ。世話をかけた」
「俺は何もしていない」


ライルは組んでいた腕を解く。
そして信じられない行動を彼はした。


「…悪かった」
「…え?」


突然腰を折って謝罪の言葉を述べるライルに、刹那は目を見開いた。
驚いた刹那の様子に、ライルは少し苛立ちを感じたようだがその感情を呑み込む。


「助けてもらったくせに殴りまくったこと、八つ当たりした事こと全部だよ……大人げなかった」
「期待はしていない」


刹那の素直な言葉にライルはぐっと押し黙ってしまう。
それでも言わなければならない事がまだあるらしく、ライルは苦虫を潰したような表情で続けた。


「そうだな」
「……」
「…一週間考えたんだ。それでも俺はまだ、お前に対しての感情が整理できねえ。だが、もうみっともない真似はしない」


言い切ると、ライルは刹那の青くなった頬に手を伸ばした。
触れられればまだ多少痛みがあるので、それが表情に出てしまう。
ライルは刹那の様子に失笑する。


「俺のせいで、色男が台無しになっちまったな」
「…ライル」
「”ライル”とは、さよならだ」


ライルの名前は、使わないという意思表示なのだろうか。
ライルは刹那の顔から視線を外して遠くを見つめた。


「お前が…戻ってこれて良かったよ」


小さな声でこちらも見ずに呟いたライルは、そのまま刹那を残してどこかに行ってしまう。
刹那は、呆然とライルの行った方向を見つめた。

(あれは…夢、じゃなかったのか?では、これは?)

刹那は帰りを待ってくれていた仲間を目の当たりにして、知らない内に頬に涙が伝っていた。
あの時とは違う心の痛みも伴い、顔を顰める。

(…強がっていたんだな、俺は…)

自身を抱き締めるように、刹那はそのまま身体を丸めて嗚咽を漏らした。






「…すっかり涙もろくなっちまったな…ライル・ディランディ…」


自室に戻ったライルは、掌で顔を押さえて俯いた。
ティエリアのきつい一発を受けても何ともなかったのに、刹那と会話するだけでぼろぼろと零れてしまうとは。

(こんなんじゃ、アニューに…皆に笑われるな)

今は亡き彼女は、いつだって笑顔を見せて俺の心を満たしてくれた。
そんな彼女に、自分の名前を残せたらいいと思っている。
俺は彼女に何もあげられなかったのだから、せめて本名だけは彼女のために。


「…ロックオン・ストラトス。兄さんの名前を継ぐのは、俺だ。俺だけだ」


刹那は無意識に俺をロックオンと呼ばなくなった。
それに値する男ではなくなったということだ。

(…信頼を取り戻すのは、難しい。俺も、お前も)
(だが、不可能ではないだろう?)

ライルは乱暴に涙を拭って、格納庫に向かった。

来るべき闘いに備えるために。


****
長いけど内容の薄っぺらいものを読んで下さってありがとうございます。ない頭では限界でしたが、どうしても書きたかったものです。
刹那とライルが見たのは共有した夢(幻覚)として書いてます。ティエリアやソーマと共有しているかは、個人におまかせ。
何より刹那に必要なのは背中を押してくれる人、いきすぎた行動等を忠告してくれる人かな…と私は思ったんです。そしたらニールしかないよな、と。ニール出すまでに脱線した気も随分しますが…(笑)

刹那がアニューを気にしたりとか、とにかくアニューを出したかったんですが、彼女の事は「使命よりも愛に生きた女性、笑顔が素敵(完全に個人的意見)」ぐらいしか分からなかったので、ほぼ割愛です。どちらか一方を選ぶのって難しいですよね…アニューはそれをやってのけた。凄い事だと思います。


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