05. そして誰もいなくなった | ナノ


05. そして誰もいなくなった


ライルが闇に呑み込まれて、刹那は独りになった。


「…何故だ…」


ぽつりと呟いた独り言に、応える声はない。先程ライルも消えてしまった。


『自分の事を考えろ!何故こんな事になったのか……』


ライルはそう言い残した。刹那もその意味を考えるが、困惑している刹那に答えは出ない。
ダブルオーの近くに座り込むと、機体の下から先程ソーマとライルを呑み込んだ闇が押し寄せてきた。

(ああ、俺も呑み込まれるのか……世界を、変える前に…)
(…仲間も、失ってしまった…)

足下から這い上がる闇に身を任せるように、刹那は身体の力を抜いた。
闇の中から黒い手が、首を掴んで力を入れる。

(夢と、同じだ。あの時…)

母親が歪みを含んだ微笑を浮かべて首を絞める。
刹那は黒い手を掴んで離させようとしたが、上手くいかなかった。


「…っぐ…は、」
『大丈夫、今は苦しいけれど一緒のところに行けるわ』


これが、俺の咎なのだろうか。
志半ばで仲間を失い、自分の生命も失う。

(刹那の名前に相応しいな…)

苦しみで掴んでいた母親と思われる女性の黒い手首から、刹那は手を外した。
変わる事を望んだが母親に命を奪われるのなら、本望である。
力を抜いて、息が出来ない苦しさに目を閉じた。


『刹那!!』


突如、眩しい光が刹那達を包み込む。
刹那は目を瞑っていても眩しくて、右腕で目を庇った。


『ギャアアアアア!!』


母親の作りだした闇も彼女自身も跡形もなく消え失せた。



女の悲鳴を聞いた後、刹那はおそるおそる腕を剥がし目を開けようとする。
完全に開く前に、刹那は誰かに腕を取られて立たされた。
そのまま腕を引かれて誰かに従いながら、格納庫を漂う。

目を完全に開いて確認出来たのは、肩よりも長く柔らかい亜麻色の髪。
その髪には見覚えがあった。いや、忘れもしなかった。
その男は背景を映し出す消えてしまいそうな身体で、それはもう生きてはいないという証明でもある。


『相変わらず、お前さんは無茶ばかりしやがる』
「…ロックオン…?」
『おちおち眠ってられないな』


若干怒りと呆れを含んだ懐かしい声に、刹那は夢を見ているのではないかと思った。
ロックオン…ニール・ディランディは仇討ちのために亡くなった。
実際に自分がその現場を見た。
刹那は喉がひりついて声が出せず、言いたいことの半分も言えなかった。


「な、ぜ……何処に、行く?」
『”帰る”んだよ。”ここ”はお前のいていい場所じゃないんでね』


ニールは振り向かず、格納庫から刹那を連れ出す。
刹那は訳が分からず、されるがままにニールの後についていった。
沈黙が支配していたが少しして、ニールはぽつぽつと話し始めた。


『ソラン・イブラヒムの母親の幻影は、お前自身が作り出したものだ』
「な…」
『心当たりがないとは言わせない。お前は何でもかんでも独りで背負いすぎだから、心がパンクしたんだよ。人間だから、万能じゃないのはよく知ってるだろ?』


押し黙った刹那に、ニールは彼に見えない位置で苦笑を浮かべる。


『刹那の教育係だった身として1つだけ、忠告するぜ?お前は誰かに寄りかかる事を覚えろ。で、胸の内を吐きだせ。何ならお前に甘ったれたライルをぼこぼこにしてもいい。お兄さんは許す』


ニールはそう言うと、止まって刹那の方に振り返った。
眼帯はなく、普段着のままの姿をしているニールに、刹那は前に見た夢とは違うと感じる。

(今は、この男に…共に戦った仲間ではなく、見守ってもらいたい姿を映し出しているのか…)

刹那が呆然とニールを見上げると、彼は視線を外さずにぽんぽんと頭を撫でた。
その昔、彼が俺にしたように。
その後に湿布を貼った頬を撫でる。


『お前の考えてることは分かるけど、無理ばっかりするな。心配するだろうが』
「ロックオン…」
『お兄ちゃん、早くしないと刹那さんが!』


2人が留まっていた場所に、もう1人透けた少女が駆け寄る。
ニールやライルと同じ、亜麻色の髪の少女だった。


『エイミー、そうだな』
「…お兄、ちゃん…エイミー?」


ニールが頬を緩めて少女の名前を呼び、刹那も呟いた。
亜麻色の髪の少女はニールから刹那の方を向き、笑顔を浮かべた。


『刹那さん、ライルお兄ちゃんをよろしくお願いします。駄目なニールお兄ちゃんよりもどうしようもないんですけど…根は優しいんです』
「……」
『エイミー、お前はなあ…刹那にまたパンクさせるような事言うなって』
『だって、』


並んだ兄妹に、とても心が温かくなる。

(ニール、お前は妹に逢えたんだな…)

刹那は2人を見て強く頷いた。


「分かった。その上で、俺はあんたの言うようやってみる」
『…そうしてやってくれ』


ニールはふっと笑いかけて、刹那の身体をちょうど彼の後ろにある私室へと肩を押した。
ふわっと浮いた身体は、そのまま何故か落とし穴に落ちるような感覚で、堕ちていく。


「!!」
『もう”ここ”には来るなよ、刹那』
「ニー…」
『…頑張れよ』


最後にニールの微笑を含んだ言葉を聞いて、刹那は意識を失った。


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