01. 白昼の悪魔 | ナノ


01. 白昼の悪魔


あの頃の、昔の夢をよく見るようになっていた。
決して先程仲間だったアニュー・リターナーを撃ったのが原因ではない。
その夢は忘れていたわけではない、心に刻まれていて忘れる事などない両親を殺したあの時。
それは現実に起きた出来事だから夢は夢でも悪夢ではない。
しかし、それがいつから悪夢に変わったのだろうか。


『ソラン…どうして私達を殺したの…』


白くか細い両手が首に向かってくる。


『あなたを引きとめてしまう仲間は消えてしまえばいいわ』


(…何を、)


『そして、ソラン?こちらで一緒に暮らしましょう?今のように辛い事なんてない世界で、一緒に…』


白い病弱な手が、首元まで伸びて……





「刹那!」


突然呼ばれた声に、刹那は目を覚ました。
視界がぼやけている。目を擦り呼ばれた方を目だけ向けると、ティエリアが眉根を寄せてこちらを見ていた。
刹那はいつの間にか眠ってしまった事に溜め息を吐き、身体を起こした。

(…あいつに殴られた頬よりも、心臓が痛いと思うのは最低だろうか。顔が歪みそうなぐらい痛みを伴っていたのに)

先程まで見ていた夢を振り払うように首を振り、ティエリアに顔を向けた。


「…どうかしたか」
「湿布を貰ってきた。君は、自分のことは本当に疎かなんだな」


腫れ上がって青くなっている頬にティエリアはばしっと叩く勢いで、患部に湿布をあてた。
優しくない手当てだが、刹那にはその方が良かった。
それに、ティエリアが優しくないわけではない。これが彼の優しさだ。


「すまない」
「いや…僕には止められなかった」


何か思う事があるのか、ティエリアは刹那の横たわっていたベッドに刹那の負担にならないように腰掛けて、元気のない声で言う。
むしろ止めなくて良かったと刹那は思う。
ライルに我慢させても何も意味がない。
刹那にとっても、殴られるぐらい大したことではなかった。
直接悪意や憎しみを向けられるのは慣れている。だから良い。
しかし、こんな風に気遣われたり擁護されるのはいつまで経っても慣れない。どうしたらいいのか分からない。

(それをした最初の男は、もういないけれど)


「お前のせいではない。あれはあれで良かった」
「だが…」
「ライルのところに行ってやってくれ。あいつは多分ぐちゃぐちゃだ…」


あの後ライルは刹那の顔を見て、一瞬で我に返った。憤りと深い哀しみを表していた瞳の奥に後悔の念を宿していた。
しかし何も言わずに刹那やマイスター達の前から立ち去った。
刹那もその後側にいた彼らを一瞥もせずに立ち去った。
扉の外にいたアレルヤの労わるような視線に毅然とした彼女の視線、そして沙慈の戸惑いの視線を感じながら。

ティエリアは盛大に溜め息を吐いて、刹那の頬を軽く擦った。
ぴりっとした痛みに思わず顔を顰める。


「僕が行けばあの男に一発やるが、それでも?」
「それは傷口に塩を塗り込むようなものだろう」
「いや、多分君と同じで喜ぶさ」


心の痛みを少しでも忘れられることが出来るのだから。

ティエリアに見透かされているとは思わず、刹那は眉を顰める。
ティエリアは刹那の苦々しい表情を見て苦笑を浮かべた。


「君は強くて脆いな。まるであの人のようだ」
「……」
「…大事にしてくれ」


ティエリアはそう言うと、ベッドから腰を上げて刹那の部屋から出ていった。
刹那は項垂れたまま、暫く動くことが出来なかった。


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