刹那誕生日2009(ニル刹) | ナノ


※ニル刹ですが、あんまり甘くないと思います(当サイト比)。
それでもよい方のみどうぞ。


『刹那、誕生日おめでとう』


ティエリアの声が脳内に響く。
自室で仮眠をとっていた刹那は、彼の声を聞いてむくりと起き上がった。
乱れた髪を手で直し、ここにはいない仲間に向かってお礼を言う。


「ありがとう、ティエリア」


イノベイター…不老になった今、誕生日は関係ないのかもしれない。
しかしティエリアは刹那の身体の事を知っていて、誕生日を祝った。
嬉しい、と素直に思う。
その感情を伝えると、ティエリアの微笑む姿が見える気がした。


『刹那…ロックオンのところへ行くように』
「ロックオン?」


刹那はティエリアと一番近い存在だと思っていたので、突然彼の名前を出されて驚いた。
ティエリアは刹那の戸惑う様子が手に取るように分かり、くすくすと笑っている。


『僕は伝えたからな。また、連絡する』
「…?ティエリア?」


一方的にリンクを切られてしまう。
刹那は仕方なく顔を洗いいつものボレロを着て、ライルのところに向かうことにした。







「遅かったな」


ティエリアに言われた通り、ライルの部屋に来た。
ライルの部屋のドアをノックすると、すぐに腕を組んでいた部屋の持ち主が出てくる。
刹那は訝しむが、相手は気にせず飄々としていている。
何を考えているのか分からない。


「ティエリアを使って呼んだ用とは?」
「誕生日おめでとさんってこと。俺からのプレゼントは、今から」


部屋の中に連れ込まれ、強く引っ張られたため刹那はよろけた。
ライルに支えられバランスを崩すもこけることはなかったが、何がしたいのか分からないので困る。


「な…」
「脱いで、それに着替えろ」


ライルはハンガーに掛けられたスーツを指した。
ライルの選んだものだろうか。見るからに上質な気がする。


「…何故?」
「ま、驚かせるための下準備?」


ライルはそう言うと、洗面所に引っ込んでしまった。
わけが分からなかったが、断る理由もないので仕方なくライルの言う通りに肌触りの良いスーツに袖を通す。
着替え終えたところで、ライルはワックスを持って洗面所から出てきた。


「ぴったりだな。ソファにでも座って」
「ロックオン、何を企んで…」
「あとで分かる」


妙に機嫌の良いライルは、座った刹那の髪をワックスで整えていく。
刹那はその間おとなしくしていた。


「出来た。あ、シャツのボタンは一つ開けとけ」


刹那がいいと言う前にライルはシャツの一番上のボタンを開けた。


「んじゃ、このまま部屋に戻れ」
「何がしたかったんだ?」
「ティエリアと俺はお膳立て。ほらほら、行くんだよ」


勝手に連れ込んでおいて随分な言い草だ。
刹那はそのままライルに背中を押されて自室まで戻ってきた。
部屋に入る前に振り返ると、ライルはにこりと笑ってさっさと入れと目で訴えられる。

(一体何なんだ?)

ティエリアとライルが何を企んでいるのか分からず、刹那は首を傾げる。
刹那の様子に、ライルは吹き出しそうなのを我慢して一言添えた。


「俺たちからの、お前への贈り物だ」


ライルは刹那が部屋に入る前に自分の部屋に戻っていった。
刹那はライルの姿が見えなくなると、オートロックを外して部屋の中に入る。
電気をつけようとするが、一瞬躊躇った。

(誰か、いるのか?)

ドアが閉まると同時に真っ暗になる。
その瞬間、背後から気配を消した自分より背の高い男(だと思う)に抱き締められる。
背後を取られるなんて、マイスター失格だ。
刹那は肩を震わせたが、背後の男は離す気はないらしい。
敵意は感じない。トレミーの中なので相手は限定されるが、こんなことをしそうな人間が刹那には思いつかなかった。


「誰だ…?」
「刹那」
「!?」


ワックスで髪を上げた左耳にかかった吐息と声にまさか、と刹那は疑う。
同じ声のライルが悪戯をしているのだろう。そう思いたかったが、ライルは刹那の部屋に入らなかった。

(この温もりは…?)

刹那は男の腕から逃れ電気をつけて、振り返った。
スーツ姿の男が、こちらを見下している。

その姿は、ライルではなく…過去に亡くした、大切な人。


「…ロックオン……ニール…」
「…見違えるぐらい、いい男になったな」


冗談交じりに言うニールに、刹那は何も出来ずに立ち尽くした。
ニールは刹那が固まっているのに構わず、ワックスで整えた髪に、耳に、頬に触れる。
優しく触れるニールに、刹那は幻を見ているのかもしれないと思った。

(それでもいい)

刹那はゆっくりと一歩前に進んでニールの背中に腕を回した。
今の気持ちが、言葉ではなく身体から伝わるように、何も言わずに。
ニールにその気持ちが伝わったのか、彼は刹那の身体を柔らかく抱き締める。
刹那が顔を上げると、ニールは唇を寄せた。


「刹那、誕生日おめでとう」


ニールは祝いの言葉を口にすると、花びらが舞い散るようにすっと消えてしまった。
刹那の涙の溜まった瞳から、頬に零れ落ちる。


「…ありがとう…」


その後フェルトがプレゼントを持ってくるまで、刹那はニールのいた場所を見つめていた。


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