キスして、ぐちゃぐちゃに掻き回して | ナノ


※ニルライです。本当にニルライ。
よく考えるとシリアス、でも考えずに読んでください(笑)


ただ側にいたら、兄さんと比較されて気が狂いそうだったので逃げ出した。
ただ側にいたら、兄さんに対する劣等感の中の小さな芽の出た感情を悟られそうで逃げ出した。
そうして俺の手元に残ったのは、兄さんに対する2つの感情だけだった。
兄さんは戦死したと聞かされ、俺の、兄さんに対する想いは余計にどこにもいけなくなった。
元々兄さんに知られたくなくて必死に隠していた感情だ。恐らく劣等感は見抜かれていたが、その中にあった親愛ではない愛情は知らなかっただろう。


「…今更どうする事も出来ないのにな」


ソレスタルビーイングに入ってから、ずっとこんな負のループばかりしている。
ここでの生活は劣等感を刺激してくれただけでなく、嫉妬心まで煽ってくれた。
兄さんは俺だけじゃない、ソレスタルビーイングのメンバーを大事に想い、そしてその残り香が4年経った今でも色濃く残っている。

(俺には、直接会いに来なかったのに…)

直接会おうとしなかったそもそもの原因は自分だ。しかし、兄さんは俺に自分の分までの未来を託し忽然と消えた。
その時からは兄さんも俺に会うつもりはなかったのだろう。メールも電話も極端に少なくなった。

(亡くしてからの後悔か…)

本当に笑えない。涙も出ない。もっと早く知りたかったのもあるが、もしかしたらそれ以上に自分は薄情者なのかもしれない。


「けど、好きだ…本当に、好きだったんだ…」


ぐっと拳を握り、デスクを叩こうとした瞬間、誰かに腕を取られた。


『こらこらライル!自分を傷つけちゃ駄目だぞ。最初に挨拶したかったけど、気になったから先に聞いておくわ。何、今誰が好きだって言った?ライルが泣きそうなぐらい好きだって想ってるの誰かな?羨ましくてちょっとその女狙い撃って…』
「な…?」
「ニール・ディランディ。誰が捲し立てろと言った」


腕を取ったのは、背景を映した兄さんだった。
生きてはいない、透けた姿。しかし何故か”ここにいる”。
その後ろに呆れた表情を浮かべた刹那が、立っていた。
俺は何が何だか分からなかったが、とりあえず腕を離してもらいきちんと振り返った。
目を擦ったが、夢ではない。現実とは信じられなかったが、甘い夢を見ているようだ。


「…何で、だ…?」
「それは俺から説明する。お前はそれまで大人しくしていろ」
『刹那、いけずだぞ』


刹那は兄さんや呆けている俺を無視して、俺の知りたい事を語り始めた。


「まず…ニール・ディランディは死んでいる。それだけは確かだ。だが、この男によるとある人物を想うあまり化けて出たらしい」
『おいこら、化けて出たとか言うな』


刹那は兄さんの文句をまた無視し(さすがに片割れが哀れに思えてきた)、続けようとする。
しかし、引っかかる言葉があった。化けて出てくるというのも信じられないが、”そこにいる”ためそれは信じる以前の問題だ。
問題はもう一つの方の…


「ある人物…?」
「…それは、目の前の男から聞くといい」


刹那はそう言うと、続ける気はなくなったのか話すのをやめて部屋から出ていった。
残されたのは俺と兄さんだったが、自分から沈黙を破ろうとは思わなかった。
そうして暫く待っていれば、後ろ頭を掻きながら兄さんは喋り出す。


『まあ、刹那の言った通りだ。気付いたらトレミーの中にいて、刹那が最初に俺を発見したんだ』
「そう…か…」
『……自分に嘘吐いてきたんだけど、やっぱり無理だな…逢いたかったよ、ライル』


兄さんはそう言うと、俺の身体を抱き締めた。
嬉しいと同時に哀しい…そんな感情よりも懐かしいという想いが先に来る。
おずおずと兄さんの背中に手を伸ばそうとして、はたと思い出した。
心にツキンと痛みが走る。
それでも訊かずにはいられなかった。


「なあ、兄さん。あんたは誰かを想うあまり化けて出たんだよな?誰だよ、それ」
『おいおい、お前まで化けたとか言うなよ。それにお前も俺の質問答えてねーじゃん』
「兄さんが言ったら俺も答える」


まるで子供のようなやり取りを抱き合いながらしていた。
今なら知らない誰かの名前を言われても、あるいは知っている奴の名前を言われても穏やかでいられる気がする。
そんな簡単な想いの筈はないのに、こうやって抱き合える事が素直に嬉しいと感じていた。


『…ライル、お前だよ』
「……え、」


予想もしていなかった言葉に目を見開く。
兄さんはそんな俺を見て、苦笑を漏らした。


『色んな奴の心配ばかりしてきたけど、お前は特別だ…だから今どうしてるのかも気になってたし、それを刹那から訊いて、どうしてソレスタルビーイングにいるのかも問いただしたい』
「兄さん…」
『けど勝手に死んだ俺が、お前を縛るわけにもいかないしな』


ふっと笑った兄さんに、俺は堪らなくなって唇を重ねた。
もう後悔するのは厭だ。傷ついても伝えないで後悔する事だけは厭だった。
驚いた兄さんの様子が伝わってきて、ほくそ笑む。
そのまま舌を取ろうとした時に、兄さんは唇を離して俺を壁に押し付けて真剣な顔つきになった。

(怒ったのか?)

双子でも兄弟でもこんなキスはしない。

(冗談で済ました方がいいのか)

そんなつもりは全くないのに、頭の中ではぐるぐると冗談と本気が混じり合っていた。
結局言う言葉は、決まっていたけれど。


『ライル…お前』
「俺は、兄さんが好きだ。だから俺のために化けて出たならいい意味に解釈するし、そっ…ん」


全部を言葉にする事は出来なかった。
兄さんは壁に押し付けた俺に、先程自分が仕掛けたキスより濃いものをしてきた。
する方には馴れているが、される方には馴れておらず、そのまま舌を取られて翻弄される。
今更ながら幽霊だと思うのに、どうして触れるのか、舌を取って理性を捨てたキスが出来るのか気になった。
だが、それも本当はどうでもいい。兄さんに触れられる事実は変わらない。


「っはぁ、…」
『何だよ、されるのは駄目なのか?』


くすくす笑う兄さんに、そんなんじゃないと言いたかったが、呼吸が整わなくて結局言えなかった。


「…もっと、しようぜ」


代わりに欲望に忠実になれば兄さんは唖然としていたが、気にせずに口付けた。



キスして、ぐちゃぐちゃに掻き回して



『ライル、ごめんな』
「謝罪はいいよ。さっさとやろうぜ」
『俺もだけどお前も、大概ムードぶち壊しだよな』
「もう欲しくて堪らないんだ…っあ、」
『ったく、そんなこと言うなよ』
「本当なんだから…っう、仕方ない、だろ…」
『…俺以外にそんな科白言ったら、赦せないな』
「ん…悪いけど、俺の片想いの期間はかなり長い、から…ちょ、そこ…」
『なるほどねー、それなら俺にも言えるかな』
「…兄さん」
『なに?』
「…いや、呼んだら返事が返ってくるのが、嬉しいだけさ」


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