ブルースターの囁き3 | ナノ
※刹那・フェルト編
トレミーを降りてすぐにライルとミレイナとも別れ、刹那とフェルトはアイルランドに来た。刹那にとっては実に1年ぶりである。
天気の良い日に2人は墓標に立つ。
来る前にフェルトと花屋に寄り、白い花を買った。名前は俺にはよく分からない。
綺麗に包んでもらった花束を置き、その隣に前にはなかった墓を見つけた。
彫ってある名前は「アニュー・リターナー」。
ライルが彼女のために作ったのだろう。
フェルトも隣で驚いていた。
(そうか…ここに、ロックオンが…)
刹那は花束をフェルトに渡して、アニューの墓を見つめた。
彼女の生涯を讃える文字を読み、刹那は苦笑を浮かべる。
(…俺は、ここに来てはいけなかったな)
刹那は目を閉じた。
「…刹那…」
フェルトが心配そうに声を掛ける。
刹那はすぐに目を開き、フェルトの方へと振り向いた。
「…問題ない。お前がニール・ディランディの前でそんな顔をしていたら、あいつは泣くぞ」
「…刹那も、だよ…?」
フェルトの手がそっと刹那の手に重なる。
刹那は何も言わなかった。
フェルトも視線を刹那から外すことはなかったが、何も言わなかった。
彼らを宥める手を持つ男は、この場にいない。
夜にはトレミーに帰ろうと思っていたが、かなり遅くなってしまい更に急がなくてもいいので彼女に無理をさせるわけにもいかずにホテルを取った。
もちろん男女なので別々の部屋を取った。
気まずい雰囲気を払拭するかのように、刹那とフェルトは一緒に食事を取り、夜の散歩に出かけた。
その中で明日は彼女の買い物に付き合う、と言ったら花のような笑みを見せてくれた。
「おしゃれをするって、クリスと約束したから…嬉しい」
「そうか」
「ねえ、刹那は何色が好き…?」
恐る恐る尋ねるフェルトに、刹那は目を瞬いた。
フェルトははっとし、それから首をぶんぶんと横に振る。
その時に肌寒いのか、肩を震わせたのを刹那は見逃さなかった。
「な、何でもないの!わ、忘れて…?」
「……フェルトには、」
刹那はそこで切ると、自分の羽織っていた上着を脱ぎ、フェルトの肩にかける。
フェルトは刹那の体温を感じて顔を真っ赤にした。
「…青も似合うな」
「えっ……そうかな?」
「ああ」
「…ありがとう」
刹那の言葉に、フェルトは恥ずかしいのかきゅっと上着を握りながら微笑む。
彼女の笑みは、少し翳っていた。
墓参りに行ってから、もしかしたらそれ以前からフェルトの様子はおかしかったのかもしれないが、その時刹那は思考に囚われていて気がつかなかった。
「フェルト?どうかしたか?」
「…あのね、刹那…」
「何だ?」
フェルトはそれ以上続けられず俯いた。
刹那は彼女が何故そんな表情をするのか分からず、少し戸惑う。
「…寒くなってきちゃったね。戻ろう?」
「ああ…」
彼女が本当に言いたいことが戻るではないと、それだけは分かった。
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