ブルースターの囁き1 | ナノ
あのやってしまった…では全く済まない事件をきっかけに、刹那はライルを避け始めた。
思ったよりも応えたらしく、結構凹んだ。好きだと自覚した途端(というには語弊があるが)にこれだ。
自分のしたことを考えれば、当然とも言えるが。
(虫の良い話…だよな。犯したくせに、好きだと伝えて、あまつさえ好きにさせようなんて…)
自信なんて皆無だが、元の友人のような仲間には戻ることは出来ない…実際に戻ろうとも思わないので、結局進むために話をするしかライルに残された手段はなかった。
しかし、話など出来る状態ではない。
ミッションもないため、話し掛ける口実も…ない。
いっそのこと部屋に突撃…しようかと思ったが、部屋で2人きりはさすがにまずい。否応なしに互いにあの夜を思い出す。
ライルは本気で悩んでいた。ライバルと勝手に位置付けたフェルトが刹那にアプローチをかけてはいない(と思う)が、やはり性別の差もあり焦る。
(…何か、片想いの女の子になった気分だ)
相手の一挙一動に左右されている。
それが不快とは思わない。どうかしていると思う。
(とりあえず話は…しないとな。このまま足踏みする気は全くねーし)
「ストラトスさん?」
決意をしたところ、突如ミレイナに声を掛けられた。
彼女に話し掛けられるのは珍しい。ミッションの確認以外は殆どなかった。
ライルは今まで考えていたことを全て追い出し、イアンに言わせると胡散臭い笑みを浮かべた。
「どうした?」
「ノリエガさんが集合をかけていたです!もう皆集まってるです!」
「…そういや、呼ばれたかも」
休憩中だと思った彼女は、わざわざ呼びに来てくれたということだ。
ライルは悪いと謝罪をし、ミレイナの後をついていく。
ふと、彼女から花の香りがした。
「…なあ」
「はい?」
「君、花でも持ってる?」
なんとなく聞いてみると、ミレイナの表情が明るくなる。
「はいです!ママが休暇中に花を持ってきてくれたです!」
なるほど。いい香りがする。
「へえ、花が好きなんだ」
「はいです!今度の休暇にママとパパにお花をあげようと思ってるです!良かったらストラトスさんも一緒に行きませんか?」
「え…休暇?」
ミレイナが休暇ということは、自分は休暇ではないだろう。
ライルが疑問に思っていると、ミレイナは言い忘れていたです、と付け足した。
「ノリエガさんのお話、私たちの休暇のお話です」
(おいおい、そんな一気に休暇にしてもいいのかよ)
ライルは、未だにこの組織の在り方がよく分からなかった。
『刹那』
スメラギに集められる少し前、刹那はティエリアと連絡を取っていた。
金色の目を、ゆっくりと開く。
「どうした、ティエリア」
『怪我の具合は?』
「もう平気だ。痕もほとんどない」
『そうか…』
「…ティエリア?」
どうやらティエリアは他に何か言いたいことがあるらしい。
刹那はティエリアが話すのを待った。
するとティエリアは、溜息混じりに刹那の頭の中に話しかける。
『君に頼みたいことがある。僕の替わりにロックオンの墓参りに行ってくれないか?』
「……」
刹那は吃驚したが声を上げることはなかった。
「…もうすぐ休暇が出る。その間アイルランド近くの島にトレミーを隠すらしいから、すぐに行ける」
『そうか。頼む』
「頼まれなくても、俺も行きたいと思った」
ふっと笑うと、ティエリアも姿は見えないが頬を緩めた気がした。
刹那はティエリアとの通信を切り、集合場所であるブリーフィングルームに向かうことにした。
(…ロックオンは、あいつのところに行くのだろうか)
そうしたら、日にちをずらしたい。
一緒にいれば、俺は…
(違う…忘れろ。…忘れたい…)
ライルを好きだと自覚などしたくなかった。
避けるにも、心が張り裂けそうだ。この感情を忘れることが出来ないから、特に。
自分らしくない、と思いながらもこの方法しか刹那には分からなかった。
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この時、地球にいます。