壊れる8 | ナノ
※刹←フェル含みます。男2人がやたら女々しいので注意注意。
次に目を覚ました時、刹那はカプセルの中にいた。
いつの間にトレミーに戻って来たのだろう。
まずは自分の状態を確認した。
怪我はきちんと手当されている。風邪の方は少し咳が出るが、酷い咳ではなくなった。
状態を把握出来たあとは記憶を呼び起こす。
(へまをして捕虜になり、ロックオンが来て、ホテルに行って…)
頭がずきずきと痛む。
その後は冷水を浴びて怒られ、何を思ったかライルは俺を抱いた。
手つきはとても優しかった。慣れていた、というのもあるかもしれない。
薬のせいか翻弄されて、ぐちゃぐちゃになって…それからよく覚えていない。
今思えば、ライルなりの優しさだったのかもしれない。
冷水を浴びていたせいで身体が冷えてしまったことを、酷く気にしていた気がする。
風邪が酷くならないように、さっさと終わらせるための手段だったように刹那は思えた。
(…礼を、言わなければ…)
捕虜になったところを助けに来てもらったこと、薬を抜いてもらったこと。
二度も助けられた。
ライルを探すために足を地面に下ろし、中刹那はゆっくりと立ち上がった。
「…刹那…!?」
鈍った身体を叱咤してメディカルルームから出ていこうとしたところ、部屋に入ってきたフェルトが慌てて止める。
刹那はそれ以上進めず、フェルトの身体に凭れる形になった。
「…う、…フェルト…?」
「急に起き上がらないで…。3日も意識不明だったの…怪我も酷いし、肺炎一歩手前だったのよ…」
フェルトの涙ぐんだ声に、刹那はトレミーの皆にも迷惑をかけたことが分かった。
刹那は華奢な彼女の身体を安心させるように片手でそっと抱き締めた。
ビクンと彼女の身体が揺れる。
「すまない…」
「…刹那…」
徐々に立ち眩みが治まり、フェルトの身体を離した。
刹那はフェルトに言われた通り(実際には反論できずに)、ベッドに戻された。
暫くは安静にしていないといけないらしい。
それならばライルのいる場所だけ聞いておこうと思った。
「…ところで、ロックオンは…?」
「彼なら、今回のミッションレポートを書いているわ。いつも刹那が書いていたから、苦戦しているみたいで…」
そう言えば、いつも任されていた気がする。
フェルトが苦笑を浮かべて話しているのを見て、相当酷いのだろうと刹那は思った。
刹那もライルが苦戦している様子を想像して、頬を緩める。
「彼、刹那のこととても心配していたから、その内来ると…あ、」
「よお、刹那…調子は…」
ちょうどライルがメディカルルームに入ってきて、刹那とフェルトの距離が近いことに固まった。
刹那は何故ライルが固まったのか分からず首を傾げたが、フェルトは状況に気付いてすぐに離れた。
「…えっと、邪魔したようだな。出直してくるわ」
「ち、ち…違うの!私スメラギさんに呼ばれていたから行くね」
フェルトは顔を真っ赤にしてそそくさとメディカルルームから出ていった。
刹那とライルはフェルトの後ろ姿を見て、首を傾げる。
刹那は何が起こったのか分からず、ライルはフェルトの気持ちは分かったが何故逃げたのか分からず。
ライルは一瞬無表情になったが、すっと表情を元に戻して刹那に歩み寄った。
「気分はどうだ?」
「随分楽になった」
「そっか」
ライルがほっとした様子を見て、一番迷惑をかけた相手だったと刹那は思い出す。
すぐに礼を言わなければ、と思った。
「ロックオン、お前には二度も助けてもらった。ありがとう」
「…礼を言われる筋合いはない。仲間を助けるのは、当然だろ?」
笑って言うが、一瞬ライルは影を見せた。
暗い感情を誤魔化すようにライルは刹那の頭を撫でようと手を伸ばす。
『もっと啼け…刹那』
刹那は突然あの夜の自分とライルのことを思い出し、身体を震わせてライルの手から逃れる。
ライルは吃驚し、そして顔を歪めた。
刹那はライルが触れられるのをいやがったと勘違いしたと悟る。
(違う。そうではない。今のは…)
「ロックオン、ちが…」
「悪いな、なるべく触らないように気をつける」
ライルは踵を返した。
刹那はライルの後ろ姿を追おうとしたが、身体が言うことを聞かず、貧血で床に膝をついてしまう。
(胸が痛い)
先程まではなかった痛みに刹那は顔を顰める。
醜態を晒しても普通に話しかけてくれたライルと、今の行動のせいで関係が断絶された。
前から傾向はあったが、今はより一層ライルのことを考えると苦しくなる。
こんな強い苦しみは今までになかった。
(…俺は、あいつが好きなのか…?)
出た結論にすとんと心が落ち着く。
しかし、違う意味で心がずきずきと痛み出した。
(…忘れろ。赦される筈がない。俺は、あいつの大事なものを全て奪った)
彼の愛したアニューを撃ち、それでも心を開いてくれて仲間に戻れただけでも奇跡だ。
もしかしたら俺が普通に接することが出来れば、戻れるかもしれない。そう期待したい。
甘い考えだと思った。ミッションや他のことでは、こんな考えは命取りだ。
(とにかくこの感情だけは、絶対に知られてはいけない…)
刹那は俯いて、眩暈のする中心の痛みにじっと耐えた。
ライルは部屋に戻り、壁を叩いた。
「…分かっていただろうが、」
俺はあいつを抱いた。理由をつければあいつを救うため…だが、自分の身体はあいつの痴態で反応した。
元の関係に戻れるわけがない。
仮に俺にその気があったとしても、刹那は絶対に赦さない。
男同士の行為に嫌悪感を感じていたのは、本当なのだから。
「俺は、傷つけてばかりだ」
本当は、気の合う友人の感覚でいたかった。
今まで刹那に甘ったれていた分、今度返していけたら…そう思っていた。
(違うな。俺はもうあいつを友人…ただの仲間として見ることは出来ない)
性の対象…というには、語弊がある。
刹那の生き方、あの姿…全てに焦がれた。
(俺は…まだ、愛することが出来るのか…)
アニューには赦されない感情なのかもしれない。
しかし、この感情を止めることは誰にも出来ない。
ライルは、前にスメラギが言った言葉を思い出した。
『亡くなった人の想いは、自己本位かもしれないけれど…残された人に幸せになってほしいと思っていると…そう考えられるようになったのよ』
彼女の言いたかったことが、今になって分かった。
亡くなった人の想いを想像することは出来る。
けれども本当のことは誰にも分からない。もう知ることも出来ない。そう言いたかったのだろう。
だったら自分の好き勝手に考える方が、楽である。救われた気がする。
ライルは自分も自己本位に考えていると思った。自分の考える「前に進む」ということは、亡くなった家族や恋人に捉われるのではなく、置いていくことに値しているのだから。
そのことは自分と刹那の関係にも言えるだろう。
友人や仲間に戻れないのならば、進むのも1つの方法だと思う。実際に進めるかどうかは別として。
今俺たちに必要なことだ。更に今後自分が前に進むためにも大事なことだと思った。
ライルは壁を殴った手を外し、今度刹那に伝えようと決意する。
たとえ、刹那にはフェルトがいようと。男同士だろうと。
(それにしても…まさか、女の子に妬く日が来るとはね)
ライルは笑いが込み上げてきて、暫く止まらなかった。
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THE☆すれ違い。
非常に分かりにくいんですが、絶交【二期20話後】→徐々にぎこちない戦友へと戻りそう【最終回あたりから「分かり合う」】→ぎこちない戦友関係が崩れる【「壊れる」】→(戻れないと悟る)→では一歩進んでみよう!という感じです。これライルの図ですね。刹那は(戻れない)→後退中ですから。
細かいところが矛盾してそうで…あわわ。長編(中編ぐらいかな?)ってとても大変ですね。