壊れる5 | ナノ




田舎のホテルに着いた時、刹那が風邪に加え衰弱していることから、水と血に濡れた服が目立たないように上着を被せてボタンを全てしめた。
刹那はライルに好きなようにさせていた。いや、身体がついていかなかった。
近くでまじまじと見て、ライルは刹那の衰弱さに眉を寄せた。

(刹那…)

立てるか?と聞いた時に、刹那はゆっくりと立ち上がるがシートに倒れてしまった。
あまり良い状態ではないため、自分が一肌脱ぐべきだろうと思った。
刹那に少し待ってろ、と言いライルはフロントの係が若い女性であることを確認して進んだ。



女性を口説き落とし、ライルは「俺の友達が海に落ちたので、温かい場所に泊めて欲しい」と頼んだらあっさりと部屋を案内してもらえた。ちょうど空き部屋もあったらしい。
田舎のホテルは部屋が広く、バスルームも部屋ごとについていた。
ライルはとりあえず刹那をベッドに横たえる。
刹那の荒い息が、彼の苦しさを物語っている。
とにかく刹那の身体を拭いて、高い熱を冷やすのが先決だと思い、ベッドに横たわった刹那の服に手を掛けようとした。
しかし、刹那が弱々しく抵抗して首を横に振った。
ライルは首を傾げる。


「どうした…?寝ていろ、辛いだろ?」
「…だ、め…だ……シャワー、浴びて…くる…」
「…行けるのか?」


ライルの問いに刹那はゆっくりと頷いた。
ライルの手を退けて、刹那はふらふらとバスルームへと足を運んだ。
ライルは刹那の様子に困惑したが、まだトレミーに連絡してなかったので、先に端末を開いて送る。
ヴェーダにも一言感謝の気持ちを添えておいた。
程無くして、端末に文字通信が入る。

【刹那や君のためではない。ミッションのためだ】


「はいはい、知ってるってーの」


ライルは全く変わっていない仲間の様子に苦笑を浮かべ、刹那がタオルを持ち忘れたことに気付いて水分補給のためのミネラルウォーターと一緒に持っていくことにした。







ライルに着せられた腿近くある上着のおかげで、刹那は彼に今の状態が悟られなかったことに安堵した。
刹那は脇腹の痛みと喉の痛みに耐えながら、服を脱いでシャワーのコックを回した。
温度は上げずに冷水を頭から浴びる。

車の中で徐々に薬が効いてきた。
風邪をこじらせて苦しいこともあったが、自分の内側から欲を無理矢理引き出されるような感覚に刹那は苦しめられる。
鏡で脇腹の青い痣と酷い自分の顔を見て、失笑する元気もなかった。

身体が冷えたら少しは収まるかと思いきや、全くそんなことはない。
刹那は唾を呑み込み、眉を寄せ目を閉じて下肢に手を伸ばした。
四の五の言う状況ではなくなってきている。


「ごほっ…っ、あ、あっ」


(声が、抑えられない…)

ライルに聞こえてしまうかもしれない。
それだけは厭だった。自分がどん底に落ちようと、こんな浅ましい姿を見られて今の関係を崩したくない。
刹那は湧き上がる欲望と怪我の痛みと、ライルに知られたくない感情で溢れ頭がおかしくなりそうだった。
震える指先で自身を慰めながら、必死に頭を振る。
冷たい水で濡れた髪は重く、前髪が目に入ったことにも頭が回らなかった。


「っふ、ああっ!」


一回果てようと、満足することなく欲望の波が再び襲ってくる。
どうしようもなく、連続で扱いたが、赤く腫れ上がったそことは裏腹に欲望が満たされない。

(鎮まってくれ…!俺は、)

タイルに座り込んだまま浴槽に身体を凭れた刹那は、もっと頭を冷やそうとシャワーの量を調節しようとした。


「刹那!」


その手をライルに阻まれ、体温に近いお湯にされる。
何をする、という前に背中にタオルがかかった。


「何やってんだ!冷水を浴びるなんて…!!」


怒りを露にするライルが、刹那の腕を掴もうと手を伸ばし…
刹那はその手を叩き落とした。


「触るな!ごほっごほっ…」


お湯が口の中に入り、刹那は咳が止まらなくなる。
タオル越しから背中を撫でると、刹那の身体が異常に跳ねた。
刹那の様子を確かめようと覗きこみ、どうした…と訊く前に、異変に気付く。
赤く腫れたそれに、冷水を浴びていた事実、捕らえられていたこと…
ライルは1つの結論に辿り着いた。


「お前…」


ライルの呟きは、バスルーム中に響いてやがて消える。
ライルに知られたことを悟り、刹那は俯いた。


「…へまを、した際に…媚薬を盛られた。近づく…な…」


刹那は息絶え絶えで、再び咳を零す。
身体に力が入らない。立ち上がることも出来ない。
自分から行動出来ない刹那は、ライルが出ていくのを、じっと待った。


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