壊れる2 | ナノ




ミッション失敗。

その言葉だけが頭に過る。
冷たい水を顔、身体にかけられ、刹那は目を覚ました。
薄暗いどこかの部屋の中、開いた目は片目だけ。
もう片方は連れ去られる前に目の近くの頬を殴られたため、じんじんと腫れて開きづらくなっていた。
身動ぎをするが、両手を後ろ手に縛られており動かせば縄が食い込んだ。
また冷水を浴びせられ寝かせられていたことも重なり、寒気がする。
刹那は自分の状況を確認し、続いて部屋の中の状況を確認することにした。
まず自分の目の前にいる恰幅のいい男が1人。下品な笑いをしながらこちらを見定めている。
この男が多分この中のリーダーである。
続いて横にいる水をぶっかけた細長い男。バケツを置きこちらもまた笑顔だ。
先程の男の部下と見える。
更に部屋の奥、扉の前のパイプ椅子に座る帽子の男。顔は薄暗いことに加えて帽子で隠れており、よく見えない。
脱出する場所はそこの扉と、窓ぐらいだ。窓のカーテンは引かれており、外の様子は分からない。
部屋にいるのは3人だが、さてどうするか…そこまで考えて動いたところ、細長い男が気味の悪い笑い声を上げた。


「やっと目覚めたようですぜ?」
「やっとだな…おい、俺たちが分かるか?坊主」


もう坊主という歳ではない。
しかしこいつらからはそう見えてしまうのだろう。
刹那は厭々ながらも顔を上げた。


「…最悪だ」
「口は利けるみたいだな」


リーダーらしき男が、物のように扱い刹那の腹を蹴る。
ごほっと咳を零し、刹那は呻いた。
その様子に側にいた2人は大声で笑う。


「坊主が気に入らなかったのかい?じゃあ兄ちゃんよ、俺たちをつけて何しようとしてたのか教えてくれよ」
「…ただ通りかかっただけだ」


そう言うと、細身の男は髪を引っ張り水のはった大きな桶の中に刹那の顔ごと突っ込む。
水が口、鼻の中に入り、苦しい。
ある程度のところで桶から顔を上げさせられて、刹那は口に入った水を零しごほごほと咳をした。
呼吸が整っていないのに加え、風邪気味だった身体が更に不幸を起こし喉から雑音まで聞こえる。

(ああ…ロックオンの言うことを聞いていればよかったかもな…)

今更ながらに悔やまれる。
刹那とライルはミッションプラン通りイギリスに降り立ち、アメリカで行った調査を引き続きしていた。
エージェントからの情報だった。規模は小さいが、世界中で最も過激な強硬派が潜伏しているらしい、と受けた。
刹那が少し咳をしていたのをライルが目敏く見つけ、1人で行くと言ったのに刹那は反対をした。
いくら規模が小さくても、敵は組織だ。1人でどうにかなる相手ではない。
風邪を言い訳には出来る筈もない。
ライルは渋ったが、押し切ってミッションに乗り込んだ。
運良くその組織の人間を見つけ、運悪くそいつらに見つかり刹那は監禁されていた。
体調が良ければこんなことになっていなかったかもしれない。

(端末は壊した。今頃気づいただろうか…)

自分がCBの人間…更にCBの居場所を知られてはならない。刹那が朦朧とした意識で出来たのは、それだけだった。
何時間経ったのかも分からない。もしかしたら数分しか経っていないのかもしれない。

(…こんなことなら、ロックオンの部屋にあるデザートを食べておけばよかった…)

こんなところで死ぬつもりはないが、弱気になった自分を叱咤したのは、ライルが楽しみに取っておいたデザートである。
以前俺のプリンを勝手に食べたのだから、いつか報復しようと思っていた。


「きったねー顔になったな」
「あん?こいつの目…金色ですぜ?」
「こりゃ…俺たち最高の拾いものかもしれねー。顔の腫れさえひけば高く売れそうだぜ」


五月蠅い。
刹那は細身の男の水責めが終わるまで、辛抱強く待つことにした。
放られたら、ミッションスタートだ。
靴の中に仕込んだナイフの存在を思い出して、刹那はひたすら耐えた。







合流ポイントに来て約一時間が過ぎた。
刹那はまだ来ない。
刹那からの連絡は一切ない。
刹那は、連絡無く遅れることなどない。
厭な予感が身体中を支配する。
さすがにおかしいだろうと思い、ライルは端末についた発信機を頼りに刹那を捜索することにした。
地図上に刹那の場所が点滅しない。

(端末が壊れた…?いや、定期的に検査しているからその可能性は低い。じゃあ……?)

とすると、刹那自身が壊したということになる。
何のために?
刹那が何かに巻き込まれ、CBの位置が知られないために、だ。

(何か遭ったのか、あの馬鹿…!!)

刹那の体調が良くないことは知っていた。咳だけだと本人は言っていたが、気管支が炎症しているようだった。
今回のミッションに刹那が関わることを反対したが、刹那は首を縦に振らなかった。
頑固もここまで来ると腹立たしい。人材不足だからしょうがない…と自身を納得させたのが間違いだった。

(頼むから、俺の予感は外れてくれ…!)

ひとまずトレミーに連絡を取ることが先決だと思い、ライルはトレミーに繋ごうとする。
その時端末に連絡が入る。

(トレミーからか!?)

すぐに開くと、それはヴェーダからの地図情報と組織の情報だった。


「…ヴェーダ?」


『ティエリア…ヴェーダから直接聞いて、初めて自分がイノベイターだと知った』


(イノベイターは、ヴェーダとリンク出来る…)

このタイミングで連絡が来たということは…


「刹那の居場所か!」


ライルは車に乗り込み、トレミーに文字通信を入れ、ヴェーダからの情報を送る。
そして、自分は地図上に点滅している場所を目指す。
頼むから、無事でいてくれ…と願いながら。


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