壊れる1 | ナノ




「こほっ…」
「ん?」


ブリーフィングルームでミーティングをしていると、刹那が咳を零した。
ライルは隣で顔を打ち顰める。


「刹那、風邪か?」
「いや…大丈…」
「額貸してみろ」


ライルは右手の手袋を外して刹那の額にあてた。
熱はないみたいだ。
風邪をこじらすと厄介なので、温かくして寝るように言う。
刹那はこくんと頷き、スメラギに視線を戻した。
何故か固まっているスメラギに刹那とライルは首を傾げる。


「どうした?スメラギ」
「な、何もないわ。刹那も風邪なら無理しないようにね」


刹那の問いに答えて、スメラギは慌てて視線を逸らした。
何を考えているのか分からなかったが、まあいいかとミッションの話に集中する。


「今回のミッションは、10人足らずの強硬派の撲滅。アジトの情報は頭に叩き込んでいってね」
「了解」
「了解した」


スメラギの言葉にライルと刹那は頷く。


「ただし…無理は禁物よ?人数が少なくても深追いはしないこと。戦力を欠くのはもちろん、私たちが悲しむんだからね」


前の飲み会の時と同じようなことを言っていて、ライルは苦笑を浮かべる。
仲間にもしものことがあれば、スメラギは心を壊すに違いない。
刹那も分かっているのか、首を縦に振った。
スメラギは2人を見て、ほっと息を吐く。


「ミッションプランはメモリに入れておいたから、確認よろしくね」
「3日後だろ?オーケー」
「じゃあ解散」


手を叩いてスメラギが出ていく。
ミッション前になると彼女の隈が一段と酷い。
それは俺たちのことを考えてくれているのだろう。プラン一つで俺たち人間の命などどうにでもなってしまうのだから。
そうは言っても、少しは寝ておかないと身体の動きも鈍るしいい女が台無しだろうが。


「…けほっ…」


そんなことを考えていたライルの隣で、再び刹那が咳をする。


「なーんか厭な咳だな。あんまり酷かったらミッション俺1人でやるぜ?」
「平気だ。第一お前1人に任せるわけにはいかない」


刹那が鋭い目つきでライルを睨み、ライルは肩を竦めた。


「信用されてないな」
「違う。ただでさえ2人でも危険なミッションだ。お前1人に任せられる筈がない」
「心配してくれてんの?」


茶化すようにライルが言うと、「調子に乗るな」と言って刹那が横っ腹を叩いた。

(いてえ、ちょっと入ったぞ。馬鹿力…!)

叩かれた場所を押さえると、刹那は少しは悪いと思ったのか目つきが柔らかくなった。


「体調の管理が出来ないのは、俺のミスだ。すぐに治す」
「…それに越したことはねーな。だけど、お前だけだと思うなよ」


ちょうどいい位置に置かれた頭をぽんと叩き、ライルはブリーフィングルームから出ていく。
ドアから出る前に刹那の顔を見るために振り返ったが、呆然と立ち尽くしていた。

(分かってねーよな、あの態度)

刹那が心配するように、ライルも同じ気持ちだということ。

仕事のパートナー以上の存在だと今では思う。実際憎悪から殺してしまいたい時もあった。否定は出来ない。
それでも俺は、あいつを撃つことが出来なかった。恐らくそれまでに培った中途半端な絆から、だろう。
その中途半端な絆が粉々に砕け散った後、結局俺は刹那との縁が切れずにここにいて、信頼出来る相棒?みたいな感情を抱いている。
イノベイターだと知った時も、驚いたものの嫌悪感はなかった。
多分、刹那が知られたくなかった、という感情が分かったからだと思う。俺だけではなく、刹那も怖れていたのかもしれない。
それを考えたら…というより考える前から答えなんて決まっていた。だから照れくさかったが今の感情を刹那に伝えたら、それは面白いことになった。
あの日のことは暫く忘れないだろう。


数日後、風邪が少し酷くなり変な咳を繰り返す刹那にライルはもう一度やめておけと言った。
しかし刹那は首を横に振る。
言い出したら聞かないのは分かっているので、ライルは渋々納得した。
そこで納得するべきではなかった。
刹那を止めておけば、あんなことにはならなかったのに。


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