スメラギ・李・ノリエガとの飲み会(ライル編) | ナノ




「ロックオンー、今日私につきあいなさーい!」


回ってきた、恒例スメラギとの飲み会。
トレミーのクルーの男(しかも妻子持ちは別)たち (ラッセ、ライル、刹那)に回ってくる、地獄の飲み会である。
スメラギは飲んで酔っ払って寝てるだけだが、付き合わされる身としてはいただけない。
ペースを崩され次の日は確実に二日酔いだし、彼女をベッドまで運ばなければならないし…この人絶対痛い目遭っておいた方がいいと思う。
俺はやらないが。戦争以外の命の危険はない方が良いに決まっている。
アメリカでビリーに逢った時にむかついてからかってやったら、涙目で恋愛相談された。
あまりにも可哀想になったので、協力してやるとか言ってしまった。30代の男たちが恋愛相談はおかしいと自分でも思う。
そんな約束をしてしまったこともあるため、俺は手を出せない。病んだあの男は、スメラギに手を出した男をナイフで刺すかもしれない。
何度も言う、俺は元から手を出す気もないが。

スメラギに引っ張られたライルは、ラッセに同情の目を向けられたが、助けてはくれなかった。
来週にはわが身だからだろう。わざと大きく溜息を吐いてスメラギに着いていく。
スメラギの部屋に案内され、ソファに座りスメラギが瓶を持ってくるのを待った。

(ほんと…危機感ないだろ…)

部屋に男を入れる神経が分からない。
おそらく同棲まがいのことをしていても、ビリーが手を出せなかったせいだろう。

(あいつ奥手すぎるにも程がある)

そんな奴が面白いから、ライルはアドバイスらしきものをしても傍観者でいることに決めていた。


「はーい、あんたたちがアメリカで買ってきてくれたお酒よー」


上機嫌で戻ってきたスメラギの両手に抱えた瓶を取り、デスクに置く。
そのまま栓を抜き、あらかじめ用意されていたグラスに注いだ。
先に入れた方を彼女に渡し、こつんとあてて乾杯をする。


「ロックオンは気が利くわねー。ラッセや刹那は私が入れないと飲んでくれないわ」
「ラッセはともかく、刹那は酒が苦手だからだろ」
「だから度の低いものにしてるんだけどね」


(そんな気遣いが出来るなら、飲ませるなよ)

危うく口に出してしまいそうになったが、アメリカで買ってきたワインを口に含んで誤魔化した。
喉がひりつく。まさか自分が呑む羽目になるとは思わず、ミッション後に刹那と適当に選んだワインにするんじゃなかったと後悔しても遅い。
ライルは少し飲んでソファに身を預けた。
その隣にもう酔ったスメラギが座る。


「やっぱり女馴れしてる男は違うわねー」
「人を女好きみたいに言うなよ」
「そうね。貴方はアニュー一筋だったわね」


唐突に彼女の名前を出されて、ライルはスメラギの方を向いた。
スメラギはライルを見ず前を向いてワインを飲み干し、グラスに注ぐ。
ライルは胸がずきずき痛むのを無視して、何でもないように話を続けた。


「…ああ、そうだな」
「新しい恋はしないの?」
「あんたが相手してくれるのか?」


酒が回ってきたのかもしれない。ライルは酷く残酷な感情が芽生える。
スメラギが何を言いたいのか分からない。
このままこの女を汚してしまえば、苛々というよりもやもやした感情が俺の中で満たされるのだろうか。

(…そんなわけねーな)

ライルは「冗談だ」と付け加えてソファに凭れた。
スメラギはライルの態度に目を細める。


「私は、最近してもいいと思えるようになったの」
「…スメラギ?」
「…私の好きだった人も死んだわ。私の戦術予報で…」


スメラギの過去に動揺する。
訊いてもいい内容なのか、と視線で訴えると、スメラギはこちらを向いて笑った。
哀しそうに、そして昔を懐かしむように。


「ソレスタルビーイングに入る前の話よ。今でもちゃんと覚えてるわ…」
「…愛していた奴のことを、無理に忘れる必要はないと思う」
「そうね。ロックオンも覚えてる?」
「ああ」


アニューの事は、トレミー内でもはや禁止ワードとなっていた。
ライルに気を遣うことも含まれるが、仲間だったアニューを考えないようにしているんだと思っていた。


「俺は、もう誰も愛さないと思う。彼女に操だてするとかそういう話じゃなくて、あんなに愛せた女はいないから」
「いつの間にか…だったからびっくりしたわ。でも、アニューは貴方を縛りつけようとはしていないと思うの」


ぐいっと二杯目を飲み干したスメラギは、グラスを両手で持ち呟いた。


「亡くなった人の想いは、自己本位かもしれないけれど…残された人に幸せになってほしいと思っていると…そう考えられるようになったのよ」
「そうか」


スメラギから瓶を取り、ライルは二杯目を注いだ。


「だから…痛めつけるような戦い方はしないでね」
「?」
「今の貴方は、任務をこなすスピードも早いし内容も悪くない。けれど、生き急いでいるように見えるのは気のせいかしら…?」


マイスターが少ないから、仕方ないと言えばそうなんだけど。
スメラギはそう言ってライルから視線を外した。
ライルに自覚はなかった。カタロンを辞めてから、きちんとしようと思っただけだ。

(刹那と和解して、俺は俺自身の戦いをしようと決意した…)

それが彼女には生き急いでいるように見えるのか。

(どちらかと言えば、俺よりも…)


『俺はイノベイターだ』


刹那がずっと隠していた彼自身の変革。
刹那が何を考えているのか、詳しくは分からない。
それでも俺より…


「それ、刹那にも言ってやってくれ」
「前の飲みの時に言ったわ」
「…母はよく見てらっしゃる」


ライルは苦笑いをして酒を呷った。
母、という言葉にスメラギはむっと唇を尖らせた。


「ちょっと、私は厭よ。ミレイナやフェルトはともかく、刹那や貴方の母なんて」
「娘はよくて息子は駄目なのか」
「もっと可愛くないと。あ、外見じゃなくて中身よ?」
「うーん、刹那はともかく、俺は可愛いところもあるだろ?」


酔った勢いで、話はずれていった。
良かったと思う。このまま恋愛の話を続ければ、俺自身が何を言い出すか分からなかったから。

暫くするとスメラギがソファで酔い潰れてしまったので、ライルは仕方なくベッドに運ぶ。
そのまま布団を掛け、片づけをして出て行こうとした。


「…エミリ…オ…」


彼女の寝言に、ライルは振り返る。
切ない声で男の名前を呼ぶスメラギに、ライルは先程の亡くなった恋人の話を想い浮かべた。
新しい恋をしてもいいと彼女は言ったが、やはり前の恋人の存在は大きいというとこか。


「あんたと俺…似た者同士かもな」


アニューを忘れられない俺と、前の恋人を忘れられないスメラギ。
それでもいつか忘れて思い出になってしまうのだろうか。それとも、その想いを胸に残したまま、誰かを愛することが出来るのだろうか。

(家族…は欲しいかもしれない。兄さんがつくれなかった分も、)

ライルは頭痛に悩まされながら、答えの出ない問題を解き続ける。


****
刹那出てこなくてすみません。ライアニュありきのライ刹な最終回後設定ですので…これからライ刹です。


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