分かり合う5 | ナノ




公園から戻って、グラハムとはホテルのロビーで別れた。
そこでビリーが待っていたからだ。
ビリーは刹那たちの姿を見、手を振ってこちらに来た。


「グラハムが悪かったね」
「…いや、こちらこそいきなり抜け出してすまない」
「それは、彼に言ってあげるといいよ」


ビリーは微笑を浮かべる。今度は瞳の奥も笑っている気がした。


「君には半分厭味で言ったんだけどね、ツインドライヴで変化した君の身体は今後どうなるのか分からない。専門の医師をつけた方がいい」
「…忠告感謝する」


刹那は目を伏せ、ビリーに大して義務的に感謝の言葉を述べた。
そして彼等を置いて部屋に戻る。
ビリーは刹那の後ろ姿を見て、苦笑した。


「彼は強いね」
「私が認める少年だからな」
「それもそうだ」


グラハムの言葉にビリーは更に苦笑を隠せない。
用も済んだので、2人はホテルから立ち去った。








部屋に戻ると、ライルは煙草を吸いながら窓の外を眺めていた。
ドアの開閉の音は聞こえただろう。それでもこちらを見ない。
刹那はふっと息を吐いてベッドに座った。


「行き先ぐらいは言ってけよ」


刹那に振り返ることなくライルが告げた。
まるで2人のぎこちない関係を物語っている。


「すまない」
「…あいつから受け取ったデータはスメラギに送っておいた。明日からも引き続き調査にあたれと」
「…了解」


事務的な会話なのに気が重い。
グラハムは逃げずに向き合えと言った。刹那自身もそれがいいと思っている。
しかし向き合った時にどう話せばいいのか分からない。
以前はどうやっていたか頭を悩ませていると、煙草を口元から外し、息を吐いたライルが灰皿に捨てて振り向いた。
無表情だ。憤りも戸惑いもなく感情が読めない。

(憎まれていた時、俺はどうした?今、どうすればいい?)

膝の上に乗せた手を握り締め、刹那は深呼吸をした。
本当のことをきちんと伝える。それがまずやるべきことだと思った。


「…黙っていて、すまない。俺はイノベイターだ」
「それって…後発的だよな?」
「ああ。ティエリアたちは厳密にはイノベイドと呼ぶ。彼らはイノベイターの出現を促すために人工的に造られた存在。俺は、ティエリアによるとツインドライヴシステムによって人間から変革した」
「…なるほどな。じゃあ、イノベイターの役割ってのは?」
「多分…来るべき対話を促す者だと思う。俺にはよく分からない。ティエリア…ヴェーダから直接聞いて、初めて自分がイノベイターだと知った」
「そうか」


刹那は今分かること全て言った。後は殴られようと撃たれようとどんと来い…ではないが、何となくすっきりした。
代わりにライルは気分を害しているだろうが。

(分かっていたことだ。だが、俺は秘密を隠しておけないのかもしれない)

ずっと握り締めていた拳を解き、視線をライルから斜め床に向ける。
ライルの足が近づいてきたかと思って顔を上げようとしたら、肘で頭を殴られた。もう一度言う。手ではなく、肘だ。


「っつ、何をする!!」


予想外の攻撃方法だったため、痛みに慣れた身体でも痛いものは痛かった。
思わず声を上げると、ライルは不敵な笑みを浮かべて刹那の隣に座った。
ぎしりとベッドが軋む。


「理由ならたくさんあるぜ?大事なこと一人で抱え込んでるは、あの童貞眼鏡と2人にするは、変態野郎とどっか行ったっきり帰ってこないは、挙げたらキリがない」
「……すまな…」
「謝罪はいい。俺も悪かった」


刹那の言葉を遮り、ライルは謝る。
刹那は何故彼が謝るのか分からなかった。肘で頭を殴った以外(少し根に持っている)、心当たりがない。
刹那は表情に出ていたため、ライルは苦笑いを浮かべるほかない。


「イノベイターを憎んでいた奴に言えるわけないよな」
「…ロックオン、」
「……変わんねえよ」
「…?」
「イノベイターでも人間でも、お前は変わらない。信頼してるし」
「え…?」


信頼、という言葉に刹那は動揺した。
隣にいたので、ライルに刹那が身体を震わせたことが伝わる。


「何だよ、俺がお前を信頼しちゃ悪いか?」
「ライル、俺は…アニュー・リターナーを…」


アニューの名前を聞き、ライルは首を横に振る。


「人と人が分かり合える…そんな未来をつくるのが俺の、ロックオンがしたいことなんでね」
「……」
「俺自身は、手初めにお前と分かり合おうとしてたんだけど?」


分からなかったか、とライルは項垂れる。
そう言われると何となく分かっていた気がする。アレルヤとマリーが旅に出てからマイスターは実質2人になった。
必然的にミッション以外でも話をしたり、トレーニングをしたり、食事を摂ったり…

(違う。必然的ではない。これらはロックオンが意図的にしてきたことだ)

刹那は受け身だった。一歩引いていたのも自分だけだった。
彼は前を歩いているというのに。

(情けない…、そして嬉しい。どうかしている)

刹那は靴を脱がずに布団を引っ被り、ライルに背を向けた。


「おい、どうしたんだよ」
「五月蠅い、見るな!」


いきなり布団の中に潜り込んだ刹那を見て、ライルは引っぺがそうとするが、赦さなかった。
突然の行為に驚いたライルだが、一つの結論を導き出してああ、と大きく相槌を打った。


「俺の本気の想いに泣いてるのか?」
「違う!」


本当は違わない。気を抜いたら目から零れる。だから隠れた。
布団の中で刹那が背中を震わせているのを見て、ライルはくすくすと笑った。


「いつもとは似ても似つかないな。新しい一面を知った」


嬉しそうに言い布団の上から撫でるライルに、刹那は何も言えずに唇を噛み締めていた。


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