分かり合う4 | ナノ




何も考えずに外に出てしまった。
ビリーにイノベイターの身体のことを訊かれて動揺した。一番知られたくなかったライルに知られてしまった。
いつか来るとは思っていたが、こんなに早くその時期が来るとは思わなかった。

(それは、俺が逃げていたからだ…)

ライルの表情から驚愕しか窺えなかった。それは彼も突然の真実に困惑したからだ。
落ち着いて考えてみれば、イノベイターを憎む感情が表れる、そんな予感がする。
勢いで部屋を飛び出してきたので戻らなければならない。
しかし、今は無理だ。ライルの顔を見て平静に話が出来る自信がない。戻りたくない。
気持ちが落ち着くまで、外の空気に当たりに行くことにした。
ロビーを抜けると、慌てて走り寄ってくる男が声をかける。


「少年!」


グラハムが刹那の腕を掴んで引きとめる。

(追いかけてきたのか)

放っておけばいいものを、と苦々しく思いながら刹那は胡乱げにグラハムを見つめた。


「何の用だ…暫く戻るつもりはない」
「じゃあ、私とデートしよう」
「…は?」


刹那は突然出てきた「デート」という言葉を脳内で正しく理解出来なかった。
戸惑う刹那を後目に、グラハムは掴んでいた腕を引っぱりホテルとは反対方向に歩き出す。
腕を振り払えばいいのに、刹那にはそれが出来なかった。
ライルがどう思ったのか気になり、おかしくなりそうだった。
そんな刹那の様子を分かっているのか、グラハムは刹那に見えないところで苦笑いをする。


「この辺りは私の行動範囲内でね、君にとっておきの場所を紹介するよ」


そのまま腕を引かれて、刹那はグラハムと共に小さな公園に来た。
公園にはブランコと滑り台があるだけだ。手入れされていない雑草が伸びている。
グラハムは一度立ち止まった。風によって降りてきた前髪を掻きあげ、遠くを見て微笑む。


「公園…?」
「ああ。私のお気に入りの場所だ」


刹那に視線を向けたグラハムは、腕を離してブランコに向かった。
刹那はその様子を見つつ、グラハムの方へと足を運ぶ。
グラハムはそのままブランコに腰掛けて地面を蹴った。


「…宇宙で君に敗れた後、ここでどうすべきか考えた」
「…グラハム…」
「君は私に生きろと言った。だが、私は死にたかった。…私にとって戦う意味を見つけるのは容易かったが、生きる意味を見つけるのは難しい」


彼は俺が、俺たちが歪めてしまった存在だった。
戦う意味は、望んでいないのに突如降ってくる。逆に生きる意味は、自分で模索しなければならない。
グラハムはここで、この小さく静かな風の通る場所で、ずっと考えていたのだろうか。
刹那はグラハムから視線を外さずに、隣のブランコに座る。
グラハムのように漕ぐことはなかったが。


「…見つかったのか?」
「いや…見つかってはいない。しかし生きているから、やれることをしようと思った。君の言う生きるために戦え…とは少し違うかもしれないが」
「そうか」


ブランコの軋む音と、風の鳴る音が耳に響く。
グラハムはブランコから飛び降り、刹那の方へと向いた。
夕日の逆光により眩しくて目を開きづらかったが、おそらく彼は微笑んでいた。


「私は、君の言う死で逃げなかった。今度は私から助言しようと思う。君はイノベイターという事実、そして隣にいたあの男から逃げないことだ」


刹那は驚き、グラハムの顔をまじまじと見る。
グラハムはしてやったりという表情を浮かべていた。


「見ているから分かるさ。君たちの関係はとても脆い」
「……」
「だが、君は弱くない。だから向き合うことも出来るだろう」


まるで見てきたかのような的確な言葉に、刹那はたじろぐ。
グラハムはこんな男だったか…ガンダムに強い執着を見せており、自分のことしか見えていない男だと思っていた。
本来、彼は心の優しい人間なのだろう。
戦っている時には見えなかったグラハムの一面に触れ、刹那は言わなくてもいいことを口に出してしまう。


「あいつはイノベイターを憎んでいる。…俺のことも」


他人に言うつもりもなかった想いを吐いてしまい、刹那は咄嗟に口を噤んだ。
グラハムは刹那の様子に首を傾げる。
分かっていないならいい、と口に出そうとした時、以前訊いた内容を彼は刹那に言った。


「前にも言ったが、愛は裏を返せば憎しみになる。反対も言えることだ」
「…憎しみが愛に変わるとでも?」
「彼の憎しみがどれくらいのものか、また赦すかどうかは私には分からない。それでも私に説教垂れた男が、情けない姿なのもどうかと思う」


ふっと意地の悪い笑みを浮かべたグラハムに、刹那は逆光だけでない眩しさを感じた。


「…すまない」
「君の謝罪はいらない。空しくなる」


グラハムは刹那に近づき手を差し伸べた。
その手を取ろうか迷っていると、ぐいっと引かれてグラハムの身体に体重がかかってしまう。
刹那は退こうとするが、グラハムに抱き締められて息を呑んだ。


「…グラハム・エーカー…?」
「駄目だったら、私のところに来るといい」
「……何を言っている。俺はマイスターだ。お前の言う通りには出来ない」
「そうだったな」


腕の力を抜いたグラハムから、刹那は身体を離す。
慰めてくれたのだろう。自分よりも年上なので人生経験は彼の方が豊富だ。
ましてや人間関係の問題は刹那自身が苦手な部類なので、グラハムの助言を素直に受け入れることが出来た。
グラハム自身がどうかなどは知らないが。


「…ありがとう」
「…少年!やはり君は私を虜にしてやまない!!」


そう言うと、呼吸が上手く出来ないぐらいに強く抱き締められた。
先程の助言をしたグラハムはどこに行ったのか。
刹那は面倒な奴だと思いながら、グラハムを引き剥がして戻ることを考えた。


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