分かり合う2 | ナノ




ミッションの期間は5日間。
その間に都市内部を見極める。
地上に降り立った刹那とライルは、安いビジネスホテルを予約しばらばらに散ることにした。
合流ポイントと時間を決めて、今日は街中を捜査をする。
刹那はライルが背中を向けて歩き去っていく姿を見てから動き出した。
以前はやる気のない態度を示していたライルが率先して動くようになり、刹那は少しだけ戸惑いを感じていた。
彼はCBに入った当初より身体も鍛えている。それに付き合うのは、自分の能力を知る上でも良いものだ。

(…手合わせしてみて、格段に身体の動きもよくなった。気を抜いたら負けるのは目に見えている…)

何が彼のきっかけになったのか刹那に特定は出来なかったが、見違えるように上達していた。

(シュミレーションの方も問題ない。前は敵に突進していくようだったが…)

実際彼が努力家なのは知っていた。ニール・ディランディと比べられるのを嫌がり、それでもハロとコミュニケーションをとっていたり、影で努力している姿を見てきた。

(頼もしいと言うべきなのか…少し、不安なのは何故だろう)

ティエリアしか知らない、「純粋種」のことがあるからだろうか。
アニューとの一件でライルはイノベイターに憎悪を抱いていた。
彼女を直接手に掛けた俺にも、当然。

(あの時、ライルは俺を撃とうとした…今は?)

リボンズ・アルマークとの戦いが終わった後、何事もなかったかのようにライルと普通に話をしている。
くだらない会話や食事の取り合いをしたり、手合わせやシュミレーションをしたりもする。
ただ、決定的になるような会話をしていない。
刹那はライルにティエリアから聞かされた、真のイノベイターであることを言っていない。ライルだけではなく、トレミーの誰にも言っていないのだが。

(イノベイターを憎んでいたあいつが、俺のことを知ったら?)

彼は殺すだろうか。
それもありかもしれない、と心のどこかで思う。
しかし、ライルが優しいままならきっと撃てない。
それならば、また俺たちの関係が壊れるだけだ。それだけだ。
その一方で、今の、曖昧なのに普通に話の出来る関係を壊したくないとも思う。
一度壊れた関係は、元には戻らない。一度壊れてしまったからよく分かる。

刹那は思考に捉われながら歩き続けていたが、ミッションに集中しようと考えることをやめた。
その時だった。


「あれ…?君…」


いきなり腕を取られて驚く。
振り返ると、以前スメラギを取り戻す時にいた男と、隣に顔に傷のある男がいた。

(…トレミーにいた男…?それと、隣は確かグラハムとか言った…)


「クジョウの…「少年ではないか!!久しいな!!元気にしていたか!?」……」


ポニーテールの男を遮るようにして、スーツ姿のグラハムが前に対峙した時とは違い友好的(?)に話しかけてきた。
刹那は関わりたくないと思い、回れ右をする。
しかしグラハムに腕を掴まれていてそれ以上動くことは出来なかった。


「元気だ。グラハム・エーカー、離してくれ」
「君とまた逢えるとはやはり運命だな!」
「グラハム…話聞いてあげなよ」


隣の男は同情的に刹那を見たが、瞳の奥は笑っていない。
刹那はどちらかと言うとグラハムよりもスメラギと関係のある男の方を警戒していた。


「何を言う、カタギリ。君だって少年に逢いたいと言っていたではないか!」
「僕はクジョウに逢いたいんだよ。クジョウを奪っていった青年には興味ない」


どうやらスメラギを寝とった(?)恨みを持っているらしく、カタギリと呼ばれた男は刹那を睨んだ。
厄介な連中に捕まってしまった、と思った。彼に関してはスメラギが敵ではなくなったと言っていたが、信用など出来ない。
カタギリとグラハムが往来で言い争っている内に逃げてしまおうと、刹那はグラハムの手を振り切って走ろうとした。
しかし、隣の男の発言でそれが出来ずに固まってしまう。


「まあ、丁度良かったよ。クジョウに頼まれていたものを渡したいから、ちょっと待っててくれる?君一人かな?」


にこにこ笑いながら(くどいが瞳の奥は笑っていない)グラハムの隣の男が機密事項に関わる話をする。
刹那は、結局この2人から逃れられないことを悟った。









「…それで、刹那は俺がいることも話しちゃって、ずっとこいつらといたと」
「ああ」


時間通りに合流ポイントに来たライルは、刹那の姿だけでなく後ろに2人の男を連れていて驚いた。
しかも1人はトレミーに乗っていたが、イノベイターに加担していたのを聞いていた。
ライルが敵視するのは当然である。


「あんたら何考えてるんだ?俺たちを捕えたいのか?」
「そうじゃないさ。ただ、君達に話しておきたいことがあってね…」


ビリーは眼鏡を上げて、ライルの方を見て笑う。
何か企んでいるな、とライルは怪訝な表情を隠さなかった。


「君達のホテルに案内してくれないか?同じ部屋だと聞いたからいても経ってもいられなくて。何せ私は少年に心奪われた存在…!!」
「…ややこしくなるから、黙っていろ」


刹那に抱きつく童顔男にも、あえて無視していたライルは些か憤りを感じた。
苛々した感情を押し隠し、刹那を引っ張って(グラハムを引き剥がして)彼らに聞こえないようにひそひそと話す。


「あいつら信用出来るのか?」
「していない…が、太陽炉に関する話らしい。スメラギが調査を頼んだと言う」
「あの人も何考えてるのか…」


それでもスメラギが関わっているなら、放っておくことは出来ない。それに身元の安全は先程より保証出来そうだ。
ライルは暫く思案した上で、ホテルに案内することにした。


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