「よい……しょっと」
襖の奥の奥から出てきたという段ボールにかかるガムテープをはがすと、散々払ったはずの埃がまた少しあたりを舞った。窓から入る西日を受けて埃はキラキラと輝いている。
中から出てきたのは古いハードカバーの本、のようなもの。
「…何コレ。………日記?」
スエードの表紙は毛羽立っていて、使い込んだ様子がうかがえる。けれどそれはとても丁寧に扱われていたようで、祖母の細やかで女性的な性格がよく象徴されているようだった。
「日記って昔は手書きで書くものだったんだ……」
新鮮な衝撃。それ以上に私を駆り立てるのは、他人の日常の記述。それもあの祖母のものというのなら、なおさらだ。
(……いつの頃の日記だろう。2014年?……って、おばあちゃんがまだ20代の頃のか。……おじいちゃんとの恋バナとか………)
生前の二人の様子は子供の頃の記憶ながらよく覚えている。とても仲の良い夫婦だった。お互いを想い合っている、あたたかい心遣いにあふれていた。そして私たちをとても愛してくれていた。
そんな慈愛に満ちた祖母の若いころの日記。今の私とそう変わらない年頃の祖母は、一体どんな日々を過ごし、どんな恋をし、どんな想いと添い遂げたのだろう。
少しの罪悪感と、身内であるという言い訳と、隠しきれない好奇心と。
何よりも、いつまでもかわいらしく幸せそうに笑っていた祖母の思い出を少しでも共有したくて。
「おばあちゃん、勝手に見てごめんね……」
私は小さく呟くと、ところどころわずかに色褪せた紺碧の厚い表紙をそっと開いた。
Diary 2014