おおきなふるどけい (An old Clock) 緩やかな傾斜のカーブをのぼり切ったところにあるその店の扉は、まるで時代を間違えてしまったのではないかと思うほど古びていてなんとも言えない味がある。使い込まれた把っ手を握って一瞬だけためらうのは毎度のこと。少し上がった呼吸を一息の深呼吸で整えると、私はもう一度把っ手を握り込んだ。 分厚く重い木製の扉がギギギと軋みながら僅かに動くと、私の胸の奥からこみ上げてくるのはまるで子どものときに感じたような鮮やかなときめき。この先の空気は僅かな隙間からでも少しずつ漏れだして、私を中へ中へと誘い込む。 ―――この、中毒性のある店の奥に。 ← |