小説 | ナノ


 恋という名の嗜好品

透さんの誕生日まであと数日、と言うところでみつけたネクタイ。

いつも仕事でも使うからと探し回ってようやく納得いくネクタイに出会えた。


「気に入ってもらえたらいいな」

プレゼント用にラッピングしてもらった箱を眺めながら顔が思わずゆるんでしまう。
当日の予定を聞いたら笑顔で「偶然ですが早上がりなんですよ〜」と言っていた。
唐突な質問にも深く聞かずに予定を開けてくれて答えてくれたのは透さんの優しさで、わたしがサプライズバースデーを考えていることもお見通しなんだと思う。それを思うとプレゼントくらいは喜んでもらいたいと張り切って色々探し歩いた。

「ふふっ…このネクタイ締めた透さんも早く見たいなぁ」







そんなことを考えながら当日がやってきた。







一足早く透さんの部屋で料理やらケーキも準備完了。

「そろそろ帰って、くるかな?」

待ちきれず何度も窓から外を覗き見たり玄関までいってみたりを繰り返す。



ガチャッ!

鍵の開く音と軽快な声が響く

「あなたの黒澤透がただいま帰りましたよ〜」

その声にパッと顔を上げて玄関に駆け出した。

「おかえりなさい!透さん!」

「時子さん!ただいま」

駆け出してきた時子にむかって両手を広げる
時子は黒澤のその姿に一瞬とまどいながらも、ゆっくりその胸に顔を埋めてぎゅーっと背中に腕をまわす。

「お誕生日……おめでとうございます透さん」

「ありがとうございます」

時子の首筋に顔を埋めて口づけを落とす
チュッと、小さなリップ音に驚き真っ赤になった顔を上げた

「透さんっ!」

「へへっ….まずは一つ、さっそくプレゼント貰っちゃいました」

「もうっ!……ちゃんと、プレゼント用意してるのに」

「…んーいい匂いですね」

「お料理も色々作りましたよ!たくさん食べてくださいね!」

そのまま離してくれるはずもなく、リビングまで黒澤に背後から抱きすくめられながら移動する。

「わっ!わわっ!すごいです!こんな料理作っちゃうなんて時子さんはやっぱり凄いですね!」

「いえ、できる範囲で準備しただけなんですけど」

「俺の好きな物ばっかりだし!あー本当幸せ」

「透さん…」

「…正直、時子さんと会うまで本当ただ生きてるだけーって感じで、美味しい物食べたいなとか明日なに食べたいなとかって全然なくて…でも時子さんに出会えて、美味しい物を食べたら時子さんと一緒に食べたいなとかって思えるようになれたから…」

「透さん…」

「って!ちょっと語りすぎましたね!すいません」

「ありがとう、ございます。そんな風に思ってくれて….嬉しいです」

そっと寄り添いキュッと手を握る
温かな温度が手を伝って心がホッとする。

「時子さ…ん」

優しく落ちる唇

「……透さん」

「時子…」

甘く甘く痺れる時間が始まろうとしたその時

「あ!」

「……え?」

「透さんにプレゼントがあるんです!」

「時子、じゃなくて?」

寸止めを食らいながら苦笑いして応える

「ちっ!違っ!これ!これです!」

黒澤の目の前に差し出したのは可愛くラッピングされた細長い箱。

「わー!なんですか!?」

「開けてみてください」

「……じゃあ」

スルリとリボンを外して箱を開けるとシンプルながらも重厚感のあるネクタイが。

「どう…です、か?」

「……これ、どうですかね?似合いますか?」

渡されたネクタイを締めて向き直ると

「うん!思った通りでした!なんて言うか…ルイジボレッリって透さんみたいって気がして」

「…ふーむ。なるほど!すごく俺のこと見てくれてるってこともわかりました」

ニコニコと笑顔で時子をソファーに貼り付けてネクタイを外した

「…透さん?」

「でもこれ、時子さんにも似合いそうですね」

一瞬外した視線をもう一度合わされた熱を持つ瞳は反らせなくて

「とお…るさ…」

「ほら、白い手首に映えますよ」

シュルリとネクタイ は時子の手首を捉えた
耳元で低く囁かれた言葉に徐々に身体は熱を孕む

「んっ…!」

「お預けされてたから…ちょっと我慢できなくなりました」

「…お誕生日、だから……透さんの…好きにしてっ…んっあ」

「そんなこと言われたら……」

その一言で形勢が逆転する

「知りませんよ…そんなに煽って」

「…わたしだって……たまには…っん…あ……」



2人、宴の始まり。




by恋のお墓

writer 裕香


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