小説 | ナノ


 小春日和

だから、なんとか自然にキミから離れる方法をオレなりに考えた。



『オレ達、やっぱり別れよう』なんて絶対言えないからさ。


だって、オレは今でもこんなにキミの事が好きなのに。

キミもオレの事をとっても大切に想ってくれてる事、オレが一番わかってる。


だから、すっげー卑怯だけど、キミがオレの事嫌うような事ばっかしてみた。







何時に帰れるかわかんないオレのために、夕飯作って待ってくれてるキミに、『こういうの、マジ重いんだけど』って言ってみた。


わざわざ官邸まで弁当作って届けてくれたキミに、『あー。今日海司と昼飯食う約束してるからいらないや』なんて言ってみた。


毎晩の日課だったおやすみメールも、途切れ途切れにしてった。


デートの最中に、わざと他の女の子に電話したりしてみた。


一緒にいる時に、これみよがしに女の子からのメール見たりしてみた。
























ねぇ?そんなに悲しそうな顔しないでよ?

オレはこれからもずっとキミを愛してるから、笑ってよ?

出来るなら、キミを失いたくなんて無いけれど。


















一生傍で護ると誓ったキミの手を、オレは自分から離そうとした。























それでもキミはやっぱり毎晩おやすみなさいのメールをくれたり。



知らない間にオレんちの冷蔵庫に、日保ちするおかずを作って入れといてくれたり。



瑞貴や海司に弁当預けてくれたり。



すっかりふたりで逢うことが少なくなっても、いっつもメールや弁当に入ってる手紙でオレのからだを気遣ってくれたり。




















彼女は。時子ちゃんは、ただただまっすぐにオレだけを見てくれた。























「そらさん。それでいいんですか?時子さん、今日も打ち合わせの時そらさんの事気にしてましたよ。本当に時子さんと別れるつもりなら、ずるずる引っ張ってないで、はっきり言ってあげないと可哀想ですよ」


瑞貴にそう言われて、「あの子がこれから先また笑顔になれるなら、隣で笑ってるのがオレじゃなくてもいいんだよ」なんて、カッコつけて綺麗事言ってみたりしたけど。


















そうしてグダグダと、中途半端でいいかげんな態度しかとれないオレに、天罰が下った。










時子ちゃんが、暴漢に襲われて怪我したんだ。








その時の警護担当だった昴さんに、オレはくってかかった。


「なんで護ってあげられなかったんだよ!?超キャリアのくせに、一般人ひとりまともに警護できないのかよ!」



そしたらさ。昴さん、オレの胸ぐら掴んで、


「だったら!だったらお前が自分で護ってやればよかったんじゃねーかよ!アイツから逃げてばっかりで、結局体も心も傷つけてんのはお前のほうじゃねーのか、そら!」


珍しく怒鳴りながら思いっきり、オレの左頬にパンチをくらわせた昴さん。




「いって…」


「そら。オレがいくら『もうそらの事は忘れろ。周りにそらなんかよりもイイ男がいっぱいいるだろ。特に今、お前の目の前にいるオレなんかな』って言ってやっても、時子ははっきり言ってたぜ。『私が今までもこれからも愛しているのはそらさんだけですから』ってな」





一瞬、さっきのよりもっと強烈なストレートパンチくらったみたいな衝撃が走った。




そっか。オレ、彼女に自分はふさわしくないなんて勝手に決めて、時子ちゃんを傷つけてたんだ。





ごめん、ごめんね時子ちゃん。

オレ、自分のことばっかだった。

自分の気持ち誤魔化して、それがキミの為になるって勘違いしてた。





本当にごめん。

今からでも間に合うかな。

キミにちゃんと伝えるよ、本当の気持ち。












バカみたいに突っ立ってるオレに、昴さんは病院の名前と病室の番号が書いてあるメモをヒラヒラさせて、「アイツ、自分が怪我してても、お前の事心配してたぞ。近頃急に寒くなってきたから、薄着して風邪ひいてないかなんて、ガキじゃあるまいし、アイツも物好き…」







昴さんの言葉は最後まで聞こえなかった。


ただ、キミに逢いたくて。


逢って、ごめんねって言いたくて。


それで、キミがもしこんなどうしようもないオレを許してくれたなら。


キミを、時子ちゃんを愛してるって伝えよう。


これからもずーっとずーっと一緒にいてください。オレの、お嫁さんになってくださいって伝えよう。







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