きらきら、輝く。


catered by うき




「…はぁ…」

結婚式を一週間後に控え、幸せの真っ只中…と言ってもおかしくないであろう時期のはずなのに、私の気分は良いものではなかった。

式が近づくにつれ、ため息の数は増え続けるばかり。


別に、海司との結婚が嫌になった訳じゃない。
もちろん、海司のことが嫌いになった訳でもない。

忙しい仕事の合間を縫って、式のことを一生懸命考えてくれていた海司はとても頼もしく見えて、格好良くて。

こんなに素敵な人のお嫁さんに、私がなってもいいんだろうか…。
と、何だか不安になってきてしまったのだ。



「…はぁ…、全然進まない…」

引っ越しの日が近づいているのに、荷造りが終わらない。

不安に押し潰されそうになり、何も手につかないでいた。

「駄目だ、ちょっと休憩しよう…」

ため息をつきながら立ち上がろうとした瞬間、家のチャイムが鳴り…

「はい…?」
「郁美、オレだ」
「海司?!」

ドアを開けると、肩で息をする海司が中に入ってきた。

「どうしたの?仕事は?」
「今日は半休。お前のことだからまだ引っ越しの荷造り終わってないだろうから手伝ってやろうと思って」
「う…たしかに終わってないけど…でも、そんなわざわざ息切らしてまで急いで来なくても」
「これを早く見せたくてさ」

そう言って差し出したのは、木箱。
海司に促され、丁寧に包みをはがした箱の中に入っていたのは…

「…お茶碗?」

同じ柄で色ちがいの綺麗なお茶碗。
いわゆる、夫婦茶碗と呼ばれるものだった。

「あぁ。お前の家に来る途中の神社で骨董市やってて」
「そこで買ってきたの?」
「買うつもりはなかったんだけどな。でも、茶碗を見たら山盛りの飯を食う郁美を思い出してさー」
「山盛りになんかしたことないよ!けど珍しいね。海司が衝動買いするなんて」

二人で笑い合いながらお茶碗を手に取り眺めていると、ふと海司が真面目な顔つきで私を見つめてきた。

「…元気なかったから」
「え?」
「何かお前、最近ため息ばっかりついてるし…こうやってサプライズでプレゼントでもしたら、少しは元気出るんじゃないかと思って…」
「ごっ…ごめん…!」

心配、させてたんだ…。

そう思うと、ますます不安が強くなる。
こんなに素敵な人を心配させて…と自分を責めたくなる。

「郁美、悩みがあるなら言ってくれ。…もし、結婚が嫌になったとか…」
「違うの!!結婚が嫌になったわけじゃなくて…その…不安で…」

こんなに素敵な人と結婚するのが、私なんかでいいんだろうか…。

胸に抱えていた不安を、思いきって打ち明けた。

私の話を黙って聴いていた海司は、優しく慰めるでもなく…怒るわけでもなく、

「…バカ」

何故か、呆れたように苦笑いをした。

「オレが嫁にしたいと思うのは、郁美だけだ。郁美以外考えらんねーよ」
「いたっ。な、なんでデコピンするの!?」
「お前がバカなこと言うからだろ」

私は真剣に悩んで、不安になってたのに…。
そう言い返す間もなく、海司がさらに続ける。

「そんなこと考える暇があるなら、『海司の嫁になれるなんて、私は世界一幸せだ』って考えてろよ」
「海司…」

…あぁ、そっか。
私は、ちょっと考え方を間違ってたんだ。

頼もしくて、格好良くて。
こんなに素敵な人のお嫁さんになれるなんて、世界一幸せに決まってる。

「…そうだよね。私、海司のお嫁さんなんだもん。世界一幸せだよ」
「ああ。俺も、世界一幸せだ」


二人して涙ぐみながら微笑む。

手にしたお茶碗が、さっきよりも輝いて見えた。




きらきら、輝く。


(…引っ越しの荷物が少し増えちゃったけど…ま、いっか)




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