込めた願いと想い


catered by 宏香


「絶対に幸せにするって誓う!ずっと大事にするから…だから、これからも俺を、傍で支えてくれ!」

事故で一時期記憶を失った海司。
思い出巡りをしている最中に、海司の記憶が蘇った。

そして、私は懐かしい場所でプロポーズされた。

断る理由なんてない。私は笑顔で頷いた。





それから数日が過ぎ、私は公邸へ向かった。
「話とは何だい?」
微笑む父に、私は隣に立つ海司を見上げた。私の視線に気付いた海司は小さく頷くと父を見た。
「総理に、結婚の許しを頂きたくて、お伺いを立てに来ました」
「結婚…!?」
「はい。郁美と、いえ…郁美さんとの結婚を許して頂きたいのですが」
海司の言葉に父が目を大きくして驚く。父は海司を見つめていたけれど、私に視線を移した。
「郁美、お前はどうなんだい?秋月君と同じ道を選んで歩いていけると思っているかい?」
父の問いに私は頷いた。
「海司となら、一緒に歩いていけると思ってる。ずっと海司は私の事を守ってくれていたし、私も海司を守りたいと思っているの。だから」
「そうか」
わかったとばかりに父が微笑んで頷いた。
「よろしく頼むよ、秋月君。郁美、幸せになるんだよ」
「ありがとうございます、総理」
「お父さん…ありがとう」
ほっとした私と海司はお互いを見て笑顔を作った。



「すっげえ緊張した…」
公邸から戻る車の中、海司が大きく息を吐きながら呟いた。
「そう見えなかったけど」
「俺はお前と違って、あまり顔に出ないからな」
海司がニヤリと笑って私の頭を撫でる。
「もう、子供扱いして」
ぷうと膨れてみせると海司が笑った。
「そういう所、昔と変わんねえな」
「どーせ成長してませんよーだ。…あ」
「どうした?」
私の声に海司が訊ねる。
「ね、海司。おばあちゃん家に行ってもいい?」
「おばあちゃん家?」
「うん。おばあちゃんに話したいし、お母さんにも伝えたいし」
「いいよ。じゃあ、今度の休みの時に行くか」
「え…一緒に来てくれるの?」
「当たり前。お前だけ行かせるわけねえだろ」
「ありがとう、海司」
笑顔で言うと、海司がぽんぽんと頭を撫でた。





「郁美、忘れ物はないか?」
「うん、大丈夫。お土産と写真は入れたし…」
私は荷物を確かめると玄関で待っている海司の所へ急いだ。
「お待たせ」
「じゃ、行くぞ」
「うん」
田舎のおばあちゃん家へ、私たちは向かった。
「そういや初めて行くんだよな」
「そうだね」
ハンドルを握りながら海司が呟くので私は頷いた。
「何か変な気分。お前がいなくなった後の場所へ行くんだからさ」
「フフ、そうだね。海司、私がいなくなって寂しかった?」
「まあ、な。いつも俺の後ろをくっついて来る、煩い奴が急にいなくなったから、拍子抜けしてた」
ハハ、と海司が笑う。けれど、心からの笑い方ではなかった。
「…今だから言うけど、すっげえ辛かった。郁美がいない毎日は、どっか…色が抜けた感じだった」
低い声で海司が当時の事を思い出して話す。私は海司の真剣な横顔を見つめていた。
「そういうお前は?」
「私?うーん…やっぱり寂しかったよ。ずっと海司と一緒だったのに、急に引っ越さなくちゃならなくて…しばらく悲しかった」
「そっか」
「うん」
頷いた私の頭を、海司が大きな手でぽんぽんと撫でる。
「けど、俺たちはまた出会えた。引力だよな」
「フフ、そうだね」
「ずっと傍にいるから」
「うん、私も」
海司が私の手を握る。私も海司の手を握りしめた。



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