故郷 いつの間にか、龍誠の歌う声に合わせて、郁美も一緒に口ずさむ事が多くなっていた。 「う〜しゃ〜ぎ〜、かぁかもいっちょ〜」 まだ上手く話せない龍誠は、母親の郁美の事をかぁか、父親の桂木の事をとぅとと呼んでいる。 実は龍誠が生まれる前に、子供に自分達をどう呼ばせるかで悩んだ時期があった。 郁美は、自分がお父さん、お母さんと呼んでいた為、ゆくゆくは自分達の事をお父さん、お母さんと呼んでもらいたいが、小さな子供がパパ、ママと呼んでいるのを見て、それも棄てがたいと思っていた。 で、桂木にそう提案したのだが。 あえなく却下。 桂木の言い分は、 『郁美は若いママでも充分通用するが、俺はおっさんだからパパなんてガラじゃない』 それに日本人だから、パパママではなく、お父さんお母さんが妥当だろう?と、至極生真面目なご回答。 確かにパパなんて呼ばれてる大地さん、想像出来ないかも…と、内心郁美は納得していた。 それからはお腹にいる我が子に、かぁかと今日はどこへ行こうか?今日は、とぅとがお休みだよ等と、話し掛けて日々を過ごし、産まれた後はもう、暇さえあれば話しかけてる毎日。 その合間に子守歌代わりに故郷を口ずさみ、今やカタコトながらも、歌うその姿は、可愛いの一言で…。 普段忙しい桂木ではあったが、なるべく郁美に負担をかけさせまいと、帰れる時は早めの帰宅を心掛けていた。 桂木が早く帰って来た時は、龍誠のお風呂入れは自分の仕事と言って譲らない。 郁美としては、普段激務の日々を過ごしているのだから、なるべくならば休んで欲しいと思うのだが、桂木は頑として譲らない。 桂木にとって、家族を持つ事は、郁美に出会わなければ、叶わぬ夢に等しかったのだから。 その夢を、 『私が桂木さんの家族になるから』と、付き合い始めたばかりの郁美は、彼女なりに真剣に桂木に伝えてきた。 その夢を叶えてくれた郁美に、改めて感謝の念を込めて。 自分に出来る事は、出来るだけしたいと思っていたのだ。 . |