故郷 catered by 蘭香&ちんぺー 「う〜しゃ〜ぎ〜お〜い〜ひ〜か〜の〜や〜ま〜」 カタコトで一生懸命歌っているのは、桂木と郁美の間に産まれた第一子の龍誠。 今年1歳の誕生日を過ぎて半年程経つ、この頃の子供の成長には、親である二人にとっても、目を見張るモノがある。 さっきから龍誠が歌っているのは、童謡の中でも郁美が取り分け気に入って、龍誠がお腹にいる頃から、胎教変わりに歌っていた、“故郷”。 まだ桂木と恋人同士だった頃から、ふとした時に口ずさむ事の多かった郁美に、桂木も聞いた事があった。 「郁美は、故郷好きだよな。…いつも歌ってる。」 「へっ?そ、そんなに私、歌ってますか?」 桂木にそう指摘され、自覚の無かった郁美は、恥ずかしさに頬を染め、俯いてしまう。 「…ごめんなさい。もしかして五月蝿いとか思われてたかな?」 「そんな事ないぞ?」 桂木は笑って、郁美の髪を撫でる。 「郁美がその歌を歌っているのを聞くと、郁美の田舎を思い出すんだ。」 何かを思い出すように、桂木が遠くを見やる。 「故郷を歌うとね…、私もおばあちゃんと過ごしていた頃を思い出すの。…ウサギはいなかったけど、小川で魚は追っかけたりしていたな。」 懐かしさに目を細める郁美の肩を抱いて、桂木が自分の方へ引き寄せる。 そのまま髪を撫でながら、桂木はふと思った事を口に出した。 「…もし、俺がSPを引退したら。」 郁美が、真剣な表情で桂木を見上げる。 「…一緒に郁美の田舎へ帰ろう。」 「…大地さん。」 「今はSPを辞める事なんて考えていないが…。そうだな、この先産まれて来た子供達が大きくなった時、二人で郁美の田舎に帰ろう。」 「…ありがとう。何か嬉しいな…。」 桂木の胸におでこを付けて、自分との未来を考えてくれる桂木の深い愛に、郁美は感謝の意を伝えた。 . |