涙の欠片






「…っ私。」




ソファに突っ伏して泣いたまま、いつの間にか郁美は、そのまま眠ってしまっていたようだった。





流れた涙が頬で渇き、瞼が腫れて重たい気がしていた。





とりあえず洗面所で顔を洗い、幾分気持ちをさっぱりさせる。




(泣いててもしょうがないよ…。私がこんな事で泣いたりしてるの知ったら、桂木さんが心配しちゃう。)





鏡に映った自分の顔は、涙のせいで幾分充血していたが、顔を洗ったお陰で頭の中はすっきりしていた。





と、その時に不意に部屋のチャイムが鳴り、続いて鍵の開く音が聞こえた。




「へっ?えぇっ?」




ただいまの声と共に、リビングに入ってきたのは、愛すべき恋人の姿。




「か…っ、桂木さん…?」




「ただいま、郁美。」





帰ってくるのはまだ先だと思っていた桂木が、今、郁美の目の前で、微笑んでいる。





「な…んで…どう…して…?」





さっき止まってた筈の涙が、又、溢れてくる。





「ハハハ。まぁ、色々あってな。」




桂木の腕が、郁美の頬に触れ、そのまま覆い被さるようにキスをする。




郁美の頬に伝う涙を親指で拭いながら、慈しむような微笑みが郁美の瞳に映る。





「郁美」




囁くように名前を呼ばれそのまま、腕の中に抱き締められた。




「…やっぱり我慢してたんだよな。」




ポツリと桂木が呟く。




「…こんなもので、郁美が喜ぶのかは解らないけれど。」




そう言って、ポケットの中から、小さな包みを取り出す。




開けるように桂木から促され、郁美が包みを開く。





中には、ピンクダイヤモンドの石が象った、雫型のピアス。




「…貸してごらん。」




言われるままにピアスを渡すと、器用に桂木が郁美の耳にピアスを通した。




「…これを見た時に泣いてる郁美の顔が浮かんだんだ。」
郁美が桂木を見上げると、微かに苦笑を浮かべて、桂木が続ける。




「…そして、これを付けた時に、笑ってる郁美の顔も浮かんだんだ。」





そっと後ろから郁美を抱き締め、桂木が郁美の左耳にキスを落とした。









「…このピアスには、キミを泣かせたくない気持ちが入ってる。」





桂木の愛情が、耳元から郁美の全身へと伝わっていき、震えるような幸福感に郁美の身体は満たされていく。






「…寂しい時はちゃんと伝えて欲しいんだ。郁美は独りじゃないから。…俺が全て、郁美の寂しさも悲しさも、喜びも怒りも総て受け止めるから。」





甘く、けれども、自分を誠実に愛そうとしてくれる桂木の本音を知って、新たな涙が浮かぶ。





それでも桂木が自分の前にいてくれる事は、郁美にとっては、至上の幸福となる。





泣き笑いの顔で至近距離の桂木を見上げ、郁美は告げる。





「お帰りなさい、大地さん。」







満足気な笑みを浮かべて、桂木はもう一度、郁美にキスをした。

















END



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