涙の欠片 「…では、今日はこれで。又、明日の朝お迎えに上がります。」 少し早めに宿泊先のホテルに付き、総理の地方入りを祝う地元議員の後援会との会食を終えた平泉に、桂木は明日のスケジュールの確認をしていた。 「…桂木君達もお疲れさん。…あぁ、桂木君実は頼みがあるんだ。」 平泉が桂木に手招きをする。 耳を貸せとばかりに、少し悪戯めいた平泉が笑顔で桂木に耳打ちする。 『…郁美へのお土産を選んでくれないか?』 「っ…って、総理、そればかりは…。」 「頼むよ、桂木君。私より婚約者の君の方が郁美の好みは解るだろう?」 ニッコリと桂木に微笑む平泉の顔には、却って逆らえない。 平泉の親心を組み、桂木は平泉の願いを聞き入れた。 重厚な絨毯を敷き詰めている、名高いホテルの中には、それなりのショップが、幾つか並んでいる。 平泉からの土産物を幾つかピックアップしていた時に、桂木の目にある物が飛び込んで来た。 控え目なアンティークのアクセサリーの並ぶ、その店のショーウィンドーの中に、間接照明の光を受けて控え目に光る、雫型のピアス。 それを見た時に、郁美の涙に暮れた顔を。 そして、桂木の顔を見て、微笑む郁美の顔が浮かんだ。 待機場所へと桂木が戻ると、桂木の携帯がなる。 「はい、桂木です。」 掛けてきたのは、平泉であった。 今から桂木班全員で部屋に来て欲しい。 (…何だろう?呼び出しか?…何かあれば、自分に連絡があってもいいはずなんだが…。) 少し解せない思いを抱いて、桂木は足早に平泉の部屋へと戻って行った。 . |