雪だらけの… catered by 石神伊織 ぶらりと入ったアンティーク・ショップにそれはあった。 レモン色と水色の蛍光色に塗られた色々な形の雪の結晶のオーナメントだ。 「クリスマスの飾りにいいなぁ」 ぽつりと呟いてそれを手に取り、ゆっくりと店内を見回す。 小さなクリスマスツリーがあった。木の上に星、葉の先にカラフルな小さなスワロフスキーが付いている。台座には雪の結晶が描かれているそれは、ミニボックスになっている。 恋人である石神さんがクリスマスをひとりで祝う事もない事は、簡単に想定できることで。ツリーさえもなさそうないつもの部屋を思い出した。 恐らく訊けば返ってくる言葉と共に。 ──事件とテロは、人の都合など聞いてくれませんからね。 そんな言葉を連想した自分にくすりと苦笑する。 今年は私と出会って初めてのクリスマスだから、ふたり一緒に祝いたくて。 あとは、ベルの上に雪の結晶が載ったドアチャイム……。 それらをレジで精算すると店を出た。 雪の結晶を見て高揚する自分に少しだけ驚いて。 原因はわかっている。上海でお揃いで買った携帯のストラップの所為だ。 店を出ると、焼けつくような日差しに、今は夏だと思い知らされる。 小さな声でクリスマスソングを歌いながら歩道を歩く。 待ち合わせ場所に、彼の姿。 「ご機嫌だな?」 「うん、そこのお店で、雪のオーナメント見つけたから、買っちゃった」 レジ袋の中を覗き込んで苦笑する石神さん。 ──子供過ぎたかな? 「今年は一緒に過ごせるといいな」 「うん」 それは、小さな小さな私たちだけの願い事── ──fin── |