記憶のしこりに怯えながら


catered by 花音




郁美と街をブラブラしていて見つけた、一件の骨董品屋。

古ぼけた置物や、作者が誰なのかもわからない絵画。
埃っぽくて古く、薄暗い店内。


潜入捜査を思い出させる匂いや雰囲気に、一瞬、頭の中を闇が駆け巡った気がした。




しかし郁美が「見てみたい!」と言うのでボンヤリ店内を眺めていたら。




窓際にひっそりと置かれた、小さな瓶。


一体何に使うものなのか…?



何となく、惹かれるように手に取ってみた。


白っぽいすりガラスでできたそれは、同じくガラスの小さな蓋がついていて。

よく見たら可愛らしい花の模様がついていて。


そして思いのほか、密閉性の高いものだった。






「…………………」






「誠二さん?なんですか、それ?」

「…さぁ、なんかを入れるモンだろうな」

「んー、きれいなビンですね。何が入ってたんだろう?」

「………さあな」

「あ!私、あっちの方も見てきますね!」

「ああ、ゆっくり見たらいい」












なぁ、郁美?


オレが今、一瞬何を思ったかわかるか?







お前を。





このボトルに入れておけたらいいなって。




ちゃんと蓋を閉めて。



いつもスーツの内ポケットに忍ばせて。



仕事中も一緒で。



誰からも見えずに。












そして。




もし、オレが。



銃弾や刃に倒れたならば。





そのときはお前も一緒に。








ひとりで先に逝ったりはしない。


お前を先に逝かせたりもしない。






オレ達はずっと、一緒だ。


もう二度と手離しはしない。












『パン!パンッ!』



遠くで、渇いた銃声が聴こえた気がした。




頭が、割れるように痛い。





「…郁美…」















「誠二さーん!これ、この髪飾り、素敵だと思いません?」


「…え?」

「これです。どんな人が付けてたのかなぁ?なんか、すっごくキレイな人が付けてた気がする。」


鏡の前で髪にあててみたり、コロコロ表情を変えてみせる郁美は、間違いなく今ここに存在するオレの恋人で。




そして、確かに、笑って、生きて。













「買ってやろう」

「えっ!?これきっと高いですよ!」

「よく似合ってる。」

「…ありがとうございます!」






オレはこの笑顔を守ってゆかなければならない。


今度こそ、何があっても。
















いつだって大事なものほど失いやすくて、気付いたときには手遅れだと知ったから。













title…瞑目、秋桜




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