羽根ペンの手紙



桂木と郁美は共に、無言で視線を動かす

二人の瞳に映るのは、小さな、縁に彫り施した木製のペントレイに入った、白い羽根を持つペンと、真鍮に細かい浮き彫りを施したインク壺

それを見つめる桂木の優しい眼差しに、郁美の目頭は、不意に熱くなる


「郁美」


目を赤くし、潤ませてしまった郁美の額に、桂木は自分の額を寄せて目を合わせる


「祖父の、優しい楽しい想い出が詰まったものだから」


桂木の深い瞳は澄み渡り、郁美の涙さえ呑み込んでしまいそうな静けさ


「どうか、そんな悲しい顔をしないでくれ。明るく笑ってやってくれないか?」


桂木の形の良い唇から漏れる言の葉は、朗らかで優しく


「祖父は、楽しい事が大好きだった。君との結婚も、とても喜んでくれている筈だから」


桂木の大切そうに語る祖父への想いは、郁美の心の宝物となる


「…、大地さん…!」


言葉にならない想いが溢れて、郁美は桂木の首に手を巻き付け、強く強く桂木に抱き付いた
桂木も、柔らかな愛しい郁美の躰を、しっかりと抱く

見つめ合う距離が狭まり、自然と唇が触れ合えば、
桂木はキスを繰り返しながら、郁美を抱き抱えてベッドに下ろす



「私が、桂木さんの家族になります」

「二人で家族を作ってゆきましょ?」


郁美のくれた言葉を思い返しながら、桂木は郁美をそっと愛撫する

想いの総てを指先に託し
愛の総てを唇に託して



『大地。

時が来ればお前を慈しみ、
お前と共に、歩もうとする女性が
きっと現れるだろう。

彼女こそが、お前の家族。
大切にな。

大地、
お前の幸せを
いつもいつでも祈っているよ』



桂木は
祖父の最後の手紙に綴られた文字を思い浮かべながら
優しく微笑む


「愛してるよ…俺の、郁美」


逞しい肩に回された白い腕が
力一杯に
桂木を抱く

桂木もまた、想いを込めて
白い躰に顔を埋めるのだった








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