地球儀の距離



「みなさん、忙しいんですね…」

「いや、あと30分は全員待機のはずですが…」

「え?そうなんですか?」

「郁美さんがいらした割には随分静かでしたが、あいつら何か言ってましたか?」

「はい、か…、あ…えーと」

私は、地球儀の貯金箱と桂木さんを交互に見た。

「ああ、海司のことですね」

と桂木さんはあっさり言った。

「ば、罰金なんじゃ…」

「今は無効にしましょう」

と桂木さんは笑った。

「本当はあいつらも、海司って何回も言いたいんですよ。郁美さんに負けずに」

「…はい。なんか、わかります」

「実際私も…うっかり海司がいるものとしてシフトを考えてしまったり」

桂木さんが恥ずかしそうに頭をかき、私は思わず笑ってしまった。

そんな私を、桂木さんはまじまじと見つめる。

「…郁美さんは、お強いですね」

「え?」

「いや、もっとこう…寂しい思いをされてるかと思いましたが、その笑顔を見て安心しました。あいつらも、郁美さんを差し置いて自分達が寂しいとは言えなかったんでしょう」

暑い時に暑いと言ったら余計暑くなるって…海司って言ったら余計寂しくなるってことか…

みんなの気持ちが分かって、胸が熱くなった。

「私も寂しいです、すごく。でも…私と海司の距離って、6文字なんです」

「6文字…!?」

「はい。パイナップル、です」

私は地球儀の上の日本とイギリスを、人差し指と中指で6歩で歩いた。



時差、9時間。

距離、9564キロ。

所要時間、直行便で12時間。

どんなに離れても、会えなくても。



海司は「パイナップル」で、6歩のフリして…

一気に私に近づいてくれる。



「パイナップル、ですか…」

「あ!えーと…」

困った顔で呟いた桂木さんに、私は慌てて「グリコ」の説明をした。





海司がイギリスのチームでの訓練を、まさしく「パイナップル」の如く飛び越えて終わらせてくるなんて、もちろんこの時は、誰も思いもしなかったこと。










「ところで、この貯金箱は、どなたが…?」

「あぁ、桃田部長です。集まった分は、式代の足しにしてほしいとのことです」





* オシマイ *



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