引き継がれるもの 満月?と首を傾げる私をよそに、邪魔するぞ、と海司はリビングに向かう。 私もドアを閉めて、海司に続いた。 「海司、今休憩中でしょ?仮眠取ったりしなくていいの?」 「そんな場合じゃなくなったから、飛び出してきたんだっつの。家にも寄ってきたんだせ?つか寒いなこの部屋!」 海司は窓辺に鉢を置くと、 「外、そんな暑くないぞ?節電しろよ」 とエアコンを切ってベランダの窓を開けた。 だってあんな電話、何事かと思うじゃない、と口には出さずに、私はマジマジと鉢植えを見つめた。 それは、鉢を含めて1メートル近くあった。 鉢からは昆布のような形の、緩やかに波打つ葉っぱが何枚も伸びていて、朝顔につけるような支柱で立ててある。 葉っぱはよく見ると肉厚で、刺はないけどどうやらサボテンの仲間なんだと分かった。 そして、その葉っぱの縁からはいくつかの短い茎が伸びて、重たげな花のつぼみがついていた。 「これって…もしかして月下美人?」 私の中で、古い記憶が蘇るのに、そんなに時間はかからなかった。 「当たり。郁美からメールもらって、思い出したんだ。そういや、つぼみがついてたなって」 海司も、私と並んで座って、つぼみを見つめながら言った。 「お母さんも好きだった花だよ。海司に、こんな趣味があるなんて思わなかった」 私は海司の意外な一面に、素直に驚いていた。 「あー…こいつな…昔、郁美のお袋さんから分けてもらったんだぜ」 海司は照れたような、でも誇らしげな調子で言った。 「うそ…!?」 「ホント。…やっぱ覚えてなかったか」 ドキドキして、鼻の奥がツンとしてきた。 思わず口に当てた両手を頼りに、呼吸を整える。 「お母さんの、月下美人…?」 もう一度、確認しようと絞り出した声は上ずってしまった。 見かねた海司が私をそっと抱き寄せてくれたから、私は、我慢するのをやめた。 |