引き継がれるもの アパートに帰って、ちょうど夕食の支度をしようとした時だった。 携帯が鳴った。 海司からの、メールではなく着信。 「もしもし、海…」 「郁美、今アパートか!?」 「え?あ、うん!」 「じゃあすぐ行く!ちょっと待ってろよ!」 「え!?来るって、海司…!?」 通話は既に途切れて、携帯はツーツー言っている。 海司、しばらくは遅番続きだって言ってたのに、どうしたんだろう? 休憩にしたって、ほんの1時間あるかないか。 もしかして、また何かトラブル? ハッとして玄関の鍵を確認して、開け放しだったベランダの戸も閉めた。 しばらくそわそわと携帯を握りしめて部屋をウロウロしていたら暑くなってきて、そういえばエアコンというものがあったと思い出して、電源をオンにした。 涼しくなるとちょっと落ち着いた。 海司、いつ頃着くだろう? お腹すいたな… そうだ、海司もお腹すいてるだろうから、ご飯の支度はしておこう、と私はイソイソと夕飯の支度に戻った。 といっても、そうめんを茹でるだけなんだけど。 2人分茹でてお皿に盛り、薬味のネギとしょうがを添えると、グウとお腹がなった。 我慢我慢。 きっと海司はもっとお腹空いてる! あ! もしかしたら、官邸に行かなくちゃいけないかも… タッパーに入れて持って行った方がいいかな? キッチンでゴソゴソとちょうどいいタッパーを探していると、玄関のチャイムが鳴った。 「あ、はーい!」 私はバタバタと玄関まで走り、カギを開け、ドアを開けて飛び出した。 「海…キャアア!」 目の前が緑色になって、さらに頬っぺたに何か触って、私は後ろに倒れそうになった。 「郁美!!」 緑の陰から顔を出した海司が、とっさに片腕を延ばして、支えてくれた。 「ったく、子供じゃないんだから、飛び出してくんなよ」 「ご、ゴメン…」 見ると、海司のもう片方の腕には、大きな鉢植えの植物。 私の目の前に現れ、鼻先を掠めた正体。 「海司………なに、ソレ?」 「ああ、満月持ってきた」 と言って、海司は笑った。 |