引き継がれるもの catered by Q野くらら 真夏の夕暮れ。 大学からの帰り道、私はスーパーで買い物を済ませて外に出た。 自動ドアが開いた途端、昼間の熱の名残と鳴き足りない蝉の声が、わぁっと押し寄せてきた。 でもそれよりも意識を奪われたものがあって、私は立ち止まった。 青から紺色へのグラデーションがかかった東の空には、ぽっかりと開いた光の穴みたいな満月が浮かんでいた。 「わぁ、大きい…丸いなぁ」 思わず呟き、しばし見とれる。 私はトートバッグから携帯を出して、満月に向けた。 新しくないから画質は悪いけど、素敵なものを見つけた時の私の習慣。 何だって共有したいと思う相手のために、時間を切り取っておく。 今も仕事で忙しい海司は、きっとこんな満月に気付いてない。 『お疲れ様。今夜はきれいな満月だよ』 一言添えてメールで送った。 他愛もないメールだけど、海司は休憩中に必ず返事をくれる。 すぐに来ないとは分かってるけど、待ち遠しい。 これを見て、海司が微笑んでくれることを祈って携帯を閉じた。 本当に、きれいな大きな夏の月。 写メじゃなくて、このままこの月を持ち帰って、海司に見せてあげれたらいいのにな。 そんなことを考えながら、私はゆっくりゆっくり、月を見ながらアパートへの帰路を歩いた。 |