player 『あ…ちなみに、彼はこんな言葉を残してる。愛の力が支配欲に打ち勝つ時、世界は平和を知るだろう』 『なかなか、いい言葉だな』 郁美は、その言葉を頭でもう一度繰り返し、やはりいい言葉だと改めて思いながら隣で雑誌の記事を読む端正な昴 の横顔を見つめていた。 『ちょっと貸せよ』 『わ!何するの!』 突然、昴は彼女の手首を掴んで彼女の手にあるギターピックを取り上げ、腕を伸ばして顎の先でギターを指した。 『ギターは貸さないよ!女性と同じように優しく扱わないといい音が出ないんだから…』 郁美はギターの弦を優しく何度か撫でてそのまま、伸ばした昴の腕を“パシっ”と軽く叩き、ギターをソファーの横 にそっと置いた。 『痛てぇな…解った。じゃ、郁美と同じように優しく扱わないといい音が出ないって事だな』 『そういう事だね』 昴は暫く、郁美から奪い取った彼女の愛用のギターのピックをまじまじと見つめた。 『ギターは郁美みたいなもんか…』 『そうそう。優しく扱わないとダメなんだよ?』 『ふーん…ピックは硬さによって音が違うのか?』 『うん…でも、あくまで道具だからね…あとは、弾く人間のテクニックもあるよ』 郁美は、聞かれた事に正直に答えているだけだ。しかし、昴の中では話がどうもすり替わっていた。何度か頭で繰 り返すと、どうも違う方向へ行ってしまう。 ギターが郁美の身体のように思えてならない…彼女の答えがそういう考えに走らせるのだ。 さながら俺はギターピックを持った演奏者か?そんな事を思いながら、彼の表情は何か深い意味がある企むような微 笑を湛えながら彼女を見つめている。 『郁美は俺じゃないとダメって事だな』 『何か言った?』 『いや…独り言』 『そのピックは、上手に弾けるようになるギターのピックなんだ…ギター教えてあげようか?』 素早く昴の指からギターピックを奪うと郁美は唯一、彼より秀でた事が自分にもある事を嬉しく感じながら、昴の 顔を覗き込む。 しかし、昴は返事もせず郁美との距離を縮めてきた。 『な、何…』 咄嗟に警戒して昴から距離を取った。そんな郁美の反応もお構いなしで昴はサディスティックな視線を郁美に 向けている。 『さっきの言葉…ギターは、女と同じように優しく扱わないといい音が出ないって…お前はそう言ったよな?俺がどう 答えたか…覚えてるよな?』 自分の言葉と、彼が答えた言葉…。昴の切れ長の目を見つめていると、郁美はゾクッと何かが背中を這い上がって くる感覚がした。彼女を呑み込むような色気が彼にはある… 『……』 彼とのやりとりを頭の中で繰り返すと、彼がまた自分をからかっている事に気が付いた。きっと彼は違う事を考えて いる。 …それは、飛んでもなく、違う事。 |