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catered by kiki



郁美は、ピアノとギターの心得がある。音楽好きが講じて自分も始めたらしく、本人は「趣味の延長」と言って謙
遜気味に言っているが、腕はなかなかのものらしい。
気が向けば、時々彼女が自分のアコースティックギターを弾く姿を見かけることが昴にはあった。

珍しく今日は何を思ったのか、ギターを手にしてさっきから昴の前を行ったり来たりしている。ペタペタと足音が傍
でする度に、彼女の姿を目で追いながら彼はコーヒーを淹れていた。

『コーヒー飲む?』

『いらなーい』

 こういう彼女の素っ気ない返事の時は、たいてい関心は傍にいる昴ではなく他の事にある。

『あっそ…』

 暫くするとソファーに座って彼女は昴に振り返った。

『ねぇ…昴ってギターできるの?』

『何だよいきなり…俺にできない事はない…って言いたい所だが、ギターは随分触ってないから忘れてるな…』

『意外…音楽とかに興味あったんだ…』

『俺が勉強ばっかやってたと思ってんだろ?』 

昴がそう聞くと、郁美は大きく頷いた。それを見て昴は小さく笑いながら、コーヒーカップを片手にソファーに座
る郁美の隣に腰を下ろした。

『大体、男なら少しは音楽に興味持つんじゃねーの?そんな時期って誰にでもあるだろ?』

『じゃぁ、この人物知ってるよね?』

郁美は雑誌のページを開いて記事を指で指し示すと、彼女の手から雑誌を取り上げそれを見た。そこには1人の男
が載っている。切り絵のようでもあるが、そうでもない。描かれている人物は、世界的に有名なギタリスト…

『ジミ・ヘンドリックス』

『へぇ…さすがだ。これ見て解ったなんて』

郁美は、昴に口角を上げてニヤリと笑う。昴は『当然だろ?』そう言いたげな視線を向けて鼻で笑った。

『歴史上最も偉大なギタリストに選ばれてたな…享年27歳。ちなみに、偶然にもニルヴァーナのカート・コバーンも同
じ年齢で亡くなってる』

『よく知ってるね…』

『郁美ほどでもないけどな…』 

自嘲気味に笑って昴は言ったが、郁美は思った以上に昴が答えた事に感嘆して声を上げた。昴は、手に持ったコ
ーヒーカップをローテーブルに置き、改めて手にした雑誌を見つめた。

『これ、なにで描いたんだ?』

『描いてるんじゃなくて、作ってるの。コレでね…』

郁美の細く美しい指に、彼女愛用のピンクのギタービックを挟んで昴に見せた。

『ギタービックでこれを作ったのか?』

『5000枚使って作ったんだって。凄いよね〜。私も作ろうかな…人物画』

『誰の?』

郁美は、少し何かを考えて昴を軽く指差した。

『警視庁の歴史上最も偉大なSPになれるかもしれない人物』

昴は一瞬目を見開いたが、すぐに屈託のない笑顔を見せた。郁美の放った言葉に悪い気はしないが、余りにスケ
ールが大きすぎる彼女の発言に少々驚いていた。

『ハハハ!なかなか、言うじゃねーか。っていうか、俺にプレッシャーかけてんのか?時々恐ろしい事言うなお前って
…』 

『そんなつもりはないけど…夢は大きい方がいいでしょ?』

『いきなり大きく出過ぎ。俺を持ち上げて何か欲しい物でもあるのか?』

そう言われて、『何もないよ』と郁美は首を大きく左右に振った。

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