未来へ



「違うと、思います…」

「え?」



箱を持って立ち上がろうとしたそらさんは、何のことだかわからないと疑問符を飛ばしながら私を見る。



「きっと、要らなくなったんじゃないんです」



私は箱を置いてソファ座り直したそらさんに、ロケットの裏面を見せた。



「こっちの方が、表より黒ずんでますよね?」

「…うん」

「シルバーって、硫化すると黒ずむんですよ。」

「りゅーか?」

「はい。普通に空気に触れているだけでも硫化するんですけど。

肌に触れている部分の方が、黒く変色しやすいんです」



する、とまとまっていたチェーンに手を掛けて、よく見えるように伸ばす。



「首に当たるチェーンも、黒くなってます」



私はそらさんの手を取って、その手のひらに静かにペンダントを乗せて。



「ずっと身につけてた、ってことですよ」



そらさんの右手ごと、両手で包んだ。

そらさんがペンダントを握りしめるように。



「そっか…」



私が手を離しても、そらさんの手はペンダントを離さないで。

少し手を開いて、じっと、見つめていた。



もう寂しそうではないその横顔に、私は安心して話しかける。



「そらさん」

「ん?なに?」



いつもの優しい笑顔で私を見るそらさんに、私も笑ってお願いを。



「それ、下さい」

「え…?」

「欲しいです、このペンダント」

「…どうして?」



理由は、少し自惚れで恥ずかしいんだけど。

でもちゃんと、伝えなきゃ。



私は一つ深呼吸をして、そらさんを真っ直ぐ見つめて。



「いつか、娘が生まれたら、私がお母さんからもらったお守りの指輪と、

このロケット、贈りたい、です」



きっとそらさんのお母さんは、そらさんにこれを遺していったんだと思う。

もう傍にいられないけれど、

遠くからあなたを想っているって、伝えたくて。



きっとお父さんもその気持ちを汲んで、大切に取って置いてくれたんだろう。





そらさんの宝物、また一つ増えたね。



私にも、共有させて?





「髪、持ち上げて?」



器用に留め金を外したそらさん。

言われるままに髪を纏めると、

そらさんは正面から首の後ろへ手を回して、私にペンダントをつけてくれて。



「うん、似合ってる」



髪を直すように撫でながら、笑顔で私の胸元で揺れる楕円形のペンダントを見ていた。



「郁美」



ちゅ、と額にキスが落とされて。



「ありがと」



そっと引き寄せられて、ぎゅうっと強く抱きしめられた。

そらさんの腕の中で、私は緩く首を横に振る。



そしてそらさんのあったかい背中に腕を回した。











そらさん。

もっと、教えてね?



あなたの過去を。



一緒に過ごすことはできなかったけど、

あなたを作った全てが愛しいから。





それから…





共に目覚める朝を、

離れて迎える朝を。



幸せに溢れた朝を、

少し胸の痛む朝を。



なにげない朝を、

かけがえのない朝を。





ひとつひとつ、二人で重ねて。





繋げていこうね。









未来へ。









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