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クマとウサギと、チキンピラフ。


catered by Q野くらら



「じゃあ今度は、ジャケットはコレで、スカートはコッチでどう!?」

「あら、それもいいわね!」

「キャー!可愛いわ、甘子ちゃん!」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、これにします」

私は軽く目眩を感じながらも姿見の前で回った。

もう、こうして何度回ったか分からなかった。



明日、とある式典に出席することが決まった私は、衣装持ちのお姉さんたちに服を借りに秋月家に来た。

元アパレル会社勤務のお姉さんたちは、こういう時本当に頼りになる。

今回も素敵なコーディネートをしてくれた。

毎度、着せ替え人形のようにされて、ヘトヘトにはなるんだけど、とってもありがたい。

「さ!無事服も決まったし、甘子ちゃん、晩ご飯食べて行ってね!」

お姉さんたちに引きずられるようにしてダイニングへ行くと、テーブルの上には既に食事の用意がしてあった。

「わ、すごい…!」

今日は何のパーティーだろう?と思うほど、和洋中全ての料理が並んでいた。

「うふふ、実は私たち、お料理教室に通い始めたの!」

「しかも、先生が超イケメンなの!」

「先生に褒められたくって、今お料理に燃えてるの!」

「目指すは先生のお友達と合コンよ!」

「やっぱり、いい男を捕まえるには、まず胃袋をつかまなくちゃ!」

食べながら、お姉さんたちは熱い意気込みを語る。

ホントに、どれもすごく美味しかった。



胃袋かぁ…



そう言えば、最近は外食ばかりで、海司にご飯作ってあげてないなぁ…

早く上がれるって言うから、明日の夜も約束してるけど、やっぱり外食の予定だし。

「甘子ちゃんは、ちゃんと海司の胃袋つかんでるものね!」

「え!?」

突然、痛い所を突かれてドキッとした。

「最近、海司にお弁当作ってくれてるでしょ?」

「この間、夜中に帰って来たと思ったら、こっそり洗い物してて」

「可愛いウサギさんのお弁当箱だったから、ピンと来たのよ!」

私は言葉を失い、お箸を落としそうになった。

運動会やお花見などのイベントはさておき、海司にお弁当の差し入れをしたことは、なかった。

違います、と出かかった声を飲み込んで、

「は、はい…」

私は無理矢理微笑んだ。

言ってしまったら大騒ぎになるのは、目に見えていたから。

海司ったら、ホント幸せ者よね、と言うお姉さんたちの声が遠くなる。



海司が、他の女の子からのお弁当を?

まさか…海司が、浮気?



そんな事、考えたことがなかった。

だって海司はいつも優しくて。

今日だって、式典の事を知ってすぐ、お姉さんたちに服を借りることを勧めてくれた海司。

オリンピック候補で、今この時もSPの激務をこなしている…

私には、少し眩しい恋人。

それに引き替え、私は…

総理の娘としての公務と、大学生活でいっぱいいっぱい。

幼なじみという気安さにも甘えてる。

料理が苦手なクセに、海司の為に全然努力してないんだから。

………ベッドでも、海司が喜ぶようなこと、してあげてないし。

そうだ…浮気されても、文句が言える立場じゃない。

海司を好きで、お料理上手で積極的な女の子が現れたら、私に勝ち目なんて、ないよね…





アパートに帰って、私はすぐ海司にメールした。

『明日はやっぱり、私がご飯作るから、うちに来てね』

ウサギの絵のお弁当箱のことを聞きたい気持ちを抑えながら。







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