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見える未来なんていらない


catered by 美澄




官邸の長い廊下で、浮かない顔をした彼女に出会った
聞けば、総理に会いに来たらしい

けれども、本当に会いたかっただろう相手・・・、昴さんは急な要請を受けて夜まで戻らない筈で

今日一日のシフトをもう一度頭の中に描きながら、僕はその事を彼女に伝えた

そうですか、と寂しそうに笑う彼女を見て、胸の奥が騒ぎ出す



君は、気が付いているだろうか

僕の底に息衝いた、恋心に―――



「少し気分転換に付き合ってよ?ケーキが美味しいお店、見つけたんだ」

戸惑う彼女の小さな手を取って、僕は歩き出した





「いらっしゃいませ」
笑顔の店員さんと香ばしいコーヒーの香りが、僕ら二人を迎え入れてくれる

小さな段差で手を取ったり、椅子を引いたりするエスコートの仕草も、最近は随分自然にできるようになった

テーブルを挟んで座った二人は、誰が見ても恋人同士にしか見えないだろう

この時間が、どれだけ特別かなんてきっと誰にもわからない
そして、僕が君の特別になりたいと、思っていることも

彼女の時間を独占できているという少しばかりの優越感に浸りながら、メニューブックを手に取る

並んだスイーツの中からいくつか注文しながら、正面の彼女の顔をちらりと盗み見るけれど、変わらず彼女の表情は曇ったままで、瞳がただ無意味に文字列を追っていた

「・・・気に、入らなかった?」
「ううん、そんな事ないよ?」

慌てて繕った笑顔の裏に隠れているのは、会えない彼を想うが故の後ろめたさ
その一途な気持ちを邪魔したくて、少しでも僕色に染めたくて、わざと意地悪をしてみたくなるんだ

「ねぇ、甘子さんは、ケーキと・・・昴さんと、どっちが好き?」
「・・・もう、瑞貴・・・」

白い頬を桃色に染めて、照れたように笑う
答えのわかりきった問いかけに、思った通りの反応を返してくれる君が、愛おしくて堪らない
このまま抱きしめて連れ去ってしまえれば、どれ程良いだろう

でも、今君を本当の笑顔にできるのは、僕じゃないってことわかってる


わかってるんだ


「冗談。・・・そんなに気になる?昴さんのこと」
「・・・しばらく、顔も見てないから・・・」

心配で、とそう小さく付け加えながら形の整った唇が、きゅと結ばれた


確かに僕らの仕事は不規則だし、危険なことも多い
心配の種は、いくらでもあるだろう



だけど、僕なら



甘子をこんなに不安にさせるようなことは、しない―――





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