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hot cake!


catered by 裕香



冷たい風と、チラチラと舞い降りる雪を避けるように早足で家路に着こうと歩みを速めた。


家に帰れば・・・待っててくれてる。




















「うう・・・寒い!ただいま帰りました!」

築ウン十年のアパートとは言え、雨風は防げるし暖もとれる。そんな部屋に入った瞬間、それなりに暖まった空気が縮こまっていた肩の力を抜いていった

「おかえりなさーい」

パタパタと軽い足音が近づいて、甘子さんの笑顔が出迎えてくれる。
それだけで、寒空の下官邸の玄関を守っていた甲斐があったと一瞬で救われてしまう。

「今日は凄く寒かったですよね…大丈夫ですか?身体、冷えてない?」

心配そうに冷たくなった僕の手を両手でギュッと握り締めて暖めてくれる

「ははっ・・・甘子さんがあっためてくれたから寒さなんて飛んで行っちゃいました」

「・・・もう、そんなことばっかり言って!」

照れて紅くなった頬を両手で覆いながらクルリと身体を反転してリビングへ戻って行ってしまった。

だって、本当だよ?

上京して、一人暮らしの僕を心配してこうやって毎日家に来て世話してくれる人なんて今までいたことなかったから。大好きな甘子さんが側にいて、僕を気遣ってくれるなんて奇跡なんじゃないか、夢なんじゃないかって時々確かめたくなる。

「そうだ、今日は総理が話しかけてくれたんです!『いつもご苦労様だね』って!」

上着を脱ぎながらリビングのソファーに座ると、キッチンから・・・

「お父さんに!そっか、ちゃんと見ててくれっ・・・っしゅん!!くしゅっ!」

「え!甘子さん風邪、引いちゃったんじゃ」

こんなボロアパートで待たせてしまっていたから風邪を引かせてしまったんじゃないかと慌ててキッチンに様子を見に行く。さっきは玄関が暗くてよく見えてなかったけど、少しだけいつもより紅潮した頬。暖かかった手は、熱のせいで体温が高くなっていただけだって気がついた

「少し、身体がだるいなってくらいで、大丈夫ですよ?」

笑顔を向けてくれていたけど、それはとても弱々しくて・・・

「ダメです!甘子さんは、リビングで温かくして座っててくださいね!夕飯・・・えーと・・・僕の得意料理を作りますから!」

「え・・・でも」

「今日は、僕に任せてください!」

一人暮らし暦は長いけど、その大半はコンビニ食やら外食が主だった。だけど、一つだけ、昔から良く作っていて、弟や妹たちから結構評判が良かったものがある
甘子さんをキッチンから追いやると、冷蔵庫から必要な材料を取り出し並べる

「粉・・・粉・・・と、卵に・・・牛乳、バターハチミツ!よし!やるぞ!!」

病人には、まずお粥なのかもしれない、だけど僕が今一番上手く作れるモノ!







熱したフライパンに生地を流し入れると瞬く間に甘い匂いが狭い家中に広がっていった

「・・・できた!憲太特製ホットケーキ!」

出来上がったホットケーキを重ね合わせて一番上にはバターとハチミツ

「わー!可愛い!!絵本に出てくるホットケーキみたいですね」

5段ほどに重ねあげた小さめのホットケーキをソファーに座る甘子さんのもとへ運ぶと瞳をキラキラさせて笑顔を向けてくれる

「これだけは・・・昔から得意で、弟たちにもよく作ってやってました」

「そっか・・・真壁さん、お兄ちゃんですもんね!」

「似合いませんけど、一応長男でしたから忙しい両親に代わってたまに弟達におやつを作るの、僕の役目だったんです」

「・・・ふふっ見てみたいな、お兄ちゃんな真壁さんも」

熱のせいで少しだけ潤んだ瞳でふわりと向けられた笑顔に僕の心臓がドクドクと早鐘を打っていった

「そ、そんな大したもんじゃないですよ!」

理性の壁が脆くも崩れ去ろうとした瞬間、はっと我に返って甘子さんから慌てて視線をそらした

「いつか・・・真壁さんの育ったところ、行ってみたいんです…迷惑、ですか?」

「そ!そんなことは・・・全くなくてですね・・・えーと!な、なんにもないところですが、いつか一緒に・・・来てくれたら…嬉しいです」

「その時は、真壁さんの弟さんとたちと一緒にホットケーキ食べれたらいいのにな」

「ホットケーキを・・・弟たちとですか?」

「そう、そしたら・・・“お兄ちゃん”の真壁さんが見られるでしょ?」

「甘子さん・・・」

そう言う甘子さんが可愛くて、愛しくて・・・少し熱っぽい身体をぎゅうっと抱きしめた






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