小説 | ナノ





そらくんのすーぷ


catered by 花音



「チョー腹減った!晩メシがこんな時間ってどうよ!?」
「しょうがないッスよ、そらさん。それより何食うんですか?」
「オレはねー、どーれーにーしーよーかなっ?コレ!おろしハンバーグとライス大盛り!」
「じゃあ俺は照り焼きハンバーグにサラダと味噌汁、ライス大盛り」
「あっあとスープ。コーンスープの大ね」
「米食うときは普通味噌汁じゃないんすか?」
「いーの、オレはこれがいーの!」
「マジでそれ好きッスよねそらさん。いっつも注文してるし」
「ん、思い出あってさ」
「へー思い出ねぇ…」





そりゃあ白いメシには味噌汁のほうが合うに決まってるよ。でもさ、あったかいスープには忘れられない思い出があってさ。











「ねえそらちゃん!どんなあじのスープがすき?」
「すーぷ?」
「ぼくパンプキンのスープ!」
「わたしもだいすき!」
「わたしはトマトのスープ!そらくんは?」
「えっと、すーぷってきいろくてちょっとあまくて、とうもろこしがはいってるやつ?」
「それはコーンスープだよ」
「ぼく、それしかしらない」
「パンプキンスープおいしいよ。かぼちゃあじであまくってオレンジいろなんだよ」
「へぇー、ぼくもそのスープたべてみたい!」
「ママにつくってもらいなよ」
「ママいないもん」
「じゃあパパは?」
「いないよ」
「ママもパパも、そらちゃんのこときらいなの?」
「…わかんない」

「どうしておかあさん、いないの?おとうさんも」
「わかんない。でもえんちょーせんせーやみんながいるもん!」











「はぁはぁっ、えんちょーせんせぇー!!」
「おや、そら。どうしたんだい?そんなに走って」
「あのね、ぼく『ぱんぷきんすうぷ』がたべたい!」
「ほう、また変わったものをリクエストするね」
「かわってないよ!みんなおうちでたべてるっていってたもん!」
「そうか…。だけどね、そら。よく聞いて?ここはそらのおうちだけど、そらだけのおうちじゃ無いんだ」
「…うん」
「大きい子も小さい子もみんな一緒に暮らしてる、わかるね?」
「うん」
「ごはんに使えるお金も決まってて、その中で先生達が工夫して美味しいメニューを考えてくれてるんだ」
「…………」
「だからね、作ってくれたものをおいしくありがたく思って食べよう?」

「…いやだ」

「そら?」
「やだやだ!ぼくもぱんぷきんすうぷがたべたいよー!うぇーーん…!」
「…じゃあね、そら。君が大きくなったら、大好きな人に作ってもらいなさい」
「ふぇ…ぐすっ…」

「そのスープはきっと、そらが今まで食べたどんなスープよりもあったかくって、おいしいはずだから。ね?だから今は我慢しよう?さあみんな食堂で待ってるよ。今日はそらの大好きなハンバーグとコーンスープだ!早く手を洗っておいで」
「ぐずっ…うん、わかった…」




「いただきまーす!」

「…コーンスープも、おいしいもん…」










もう20年以上も昔の話だけど、結局あれから『パンプキンスープ』なるものをオレは一度も食べていない。


や、食う機会はいくらでもあったんだけど…なんつーか、意地?みたいな。

インスタントとかファミレスのじゃなくて、ちゃんとした手作りのを食ってみたいんだよなぁ。


はぁーっ、もしかしてオレ、一生食えねーかもな。あん時園長先生が言った「大好きなひと」は…、ホントはいるんだけど。
住む世界が違うっつーか、オレなんか真面目に相手にされるワケない現職総理のお嬢さまでさ。んでチョー優しくてチョー可愛い!


だけどイマドキのオンナノコ達とは違って、天然記念物並のニブチンちゃん。そこがまた可愛いんだけど。ま、オレなんかにはもったいないっつーか。








…だから、オレの秘めた想いなんて気づかれるはずない。ない、はずだった、のに。










今オレの目の前でちょこんと、少し重そうな包みを差し出してるのは、間違いなく甘子ちゃん。



「あのっ、そそそそらさん!さっ、差し入れですっ!」
「へっ?」
「迷惑だったらごめんなさい!じゃあ私これからお父さんの所に行きますんで!」


耳まで真っ赤にしながらピョコンと一礼し、甘子ちゃんは脱兎の如くいなくなった。


「これって、もしかして…弁当?」


確かにその包みは温かくて、いい匂いがする。

でもなんでオレに弁当…?
からかわれてるとか?まさかカラシとかワサビが仕込んであるとか!?いやいや甘子ちゃんに限ってそんな事するわけねーよな、瑞貴じゃねーんだから。



…とりあえず、いただいちゃおっかな。昼メシまた食いそびれてたし。あんま深く考えないでおこっと。甘子ちゃんがオレなんかに気ィあるわけナイし。海司とか昴さんにも差し入れしてんだきっと。










だけど



なんとなく誰にも見られたくなくて、官邸の庭のベンチでオレはそれを開けてみた。


すっげー寒い日でさ。東京なのに雪ちらついたりして。




水色のギンガムチェックの包みを開けると、想像してたのとは随分違う弁当箱。

保温ジャーってゆーの?

最近は高機能で、長時間あったかいまま持ち運べるモノもあるとか班長が言ってたな。



えっと、こっちがごはんで、これがおかず。うわっ!チョー美味そう!

ん、これは味噌汁かな?





もうひとつの、それは他よりも一層あったかい容器に入ったもの。


開けてみると。










「…パンプキンスープ?」




そこには、大好物のコーンスープよりもオレンジ色で濃厚で甘い匂いの液体。


間違いなく、あの日泣いて園長先生を困らせた原因のスープ。



こんなに寒い中、ホカホカと湯気をたてるそれをひとくち。




「…………」



もうひとくち。



「…………」




あとは、こちらもほんのり温かいごはんに、玉子焼きやらタコさんウインナやら唐揚げやらのおかずと共にほおばって。





「ごちそうさまでしたっ!チョーうまっ!」



一瞬という言葉がぴったりな程のスピードで、あったかい弁当を平らげたオレ。

包みに弁当箱を戻そうとしたら


「あれ?なんか入ってる…」







『そらさんへ☆寒い中お疲れさまです。少しでもからだが温まればいいなと思って、パンプキンスープを作ってみました。本当はコーンスープが好きだって海司に聞いてたんですけど、カボチャも栄養たっぷりで美味しいですよ!前にそらさん野菜苦手だって言ってましたけど、これならいけるかと思って。あ、やっぱり無理だったら遠慮なく残してくださいね。それではお仕事頑張ってください(*^-^*) 甘子』










園長先生。

あの日言ってくれた事、やっぱウソじゃなかった。

大好きな人が作ってくれたパンプキンスープは、甘くてあったかくって美味しくって。


それでいて、優しい優しい味がしたよ。



あの日、先生が言った「大好きな人に作ってもらったスープ」がこんなにあったかくておいしいのは、その人もオレを好きだって思ってくれてるから、なんだよね?


ちゃんとオレの事を大事に思ってくれる人もいるんだよね?



今から、弁当箱返すって口実で、甘子ちゃんのところへ行ってきます。


「オレ、君のことが好きだ!大好きだ!」って。


大きな声で言ってくる!



オレ、もうさみしくなんかないからさ。


だいじょーぶ。








「うわっ!雪積もってきてるじゃん!?さみー!」






園長先生。


東京では珍しく、今日の雪は積もりそうです。


冷たい冷たい雪だけど


オレの心は


真っ白で


人を愛せる自分を


ちょっとだけ誇りに思います















「そらさん?今日の夕飯は何がいいですか?」
「んーとね。ハンバーグ、ソースはなんでもオッケーだよん☆それとパンプキンスープ、大盛りで!」
「スープ大盛りって…どんなですか(笑)」
「いーの!幸せなの!」「へっ?しあわせ?」
「ううん、なんでもないよ!あ、ほらっ!また雪だ!」
「今年2回目の雪ですね」
「そだね。来年も、再来年もその次もずっとずっと、雪見れたらいいね」「見れますよ。二人ともおじいちゃんとおばあちゃんになっても」









ちいさくてさみしがりやさんだったそらくんは、おおきくなって、だいすきなひととおいしいすーぷをおなかいっぱいたべた、とさ。

おしまい。



MENU





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -