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細やかな幸せ


catered by 谷崎


若い男が毎日、掃除をしている風景はもはや日常茶飯事。
だがその男が制服を着た…それも警察官というのだから、初めて訪れる者は首を傾げる。

―――なぜ、警察が官邸の掃除をしているのかと…。

今日もまた、厳重なセキュリティーを抜けて訪れた人間は一度男を目撃するが、見て見ぬふりして奥に進んでいった。

掃除をしていた男―――真壁は初めその様子に戸惑ってはいたものの、次第に掃除が自分の仕事と割り切ってからは周りを気にしなくなった。



真壁は正真正銘の警察官である。
本来は、官邸の警備担当という重要な役目を任せられているのだが、何分官邸の周りは不審者が気軽に侵入できるような隙はなく、至って安全といえる場所。
ただ突っ立っているだけというのもサボっているような気がして、真壁が始めたのが官邸の掃除だった。

しかしそれは周りからの評判はいいものではない。

警察ならば警察らしく―――…と頭の固い人間がゴロゴロいるこの場所では真壁の頑張りは認められていなかった。


内閣総理大臣とSPたち以外は…。
彼らは手が空いているからと真壁に会いに来る。それが真壁を気遣う彼らの優しさであることは、もちろん真壁でも気づいていた。


そして彼ら以外にももう一人―――…


「こんにちは、真壁さん」


真壁が振り返るとそこには総理の一人娘である甘子がいた。
柔らかい笑みは真壁の顔色を赤へと染めた。


「今日もいい天気ですね」


何気ない会話は、真壁の心を取り乱す。
その理由は既に気付いていたが、理由が理由なだけに解決する見込みは暫くはないだろう。

官邸を訪れる度に、身分の低い自分に話しかける甘子はその理由は知らない。

寧ろ彼女に知られてはいけない。


「今日は、甘子さん」


真壁は今日も掃除をする。
彼自身ためであり、彼女の目に留まるために。



FIN



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