小説 | ナノ





千の葉のように


catered by 宏香


久し振りに海司の休みが取れ、私たちはショッピングモールに来ていた。
前に行きたいと言っていたのを覚えていてくれた海司の優しさに幸せを感じながら、私たちは手を繋いで歩いていた。
モールの中には様々なショップが入っていた。どれもキラキラとしていて、私はあちこち見ていた。
「ほら、ぶつかるぞ」
「え。あ、ありがとう」
よそ見をしている私の手を引いて、海司は一歩前を歩きながらぶつからないように気を配ってくれている。そんな所も素敵で、私はつい顔を緩ませた。
「何ニヤついてんだよ」
「だって、海司が優しいから…嬉しくて」
「お前な…照れる事言うなよ」
頬を僅かに赤くした海司が前を見る。私から見える彼の耳は、真っ赤になっていた。
そんな海司が大好き。私はギュッと繋いでいる手をしっかり掴んだ。





ショップを見て回っていると、ふわっと甘い香りがした。
見るとケーキ屋さんがあって、たくさんの美味しそうなケーキが綺麗に並べられていた。
たくさんあるなあ、なんて思いながら見ていたら、急に海司が立ち止まった。
「うわっ!ど、どうしたの?」
思いきり海司の肩にぶつかった私は、彼を見上げた。
「食いたそうに見ている奴がいるからさ、買ってやろうかと思って」
「…え?」
チラッと私を見た海司の言葉に、私は目を丸くした。
「いらないんならいいけど」
「いいいいいる!!食べたい!」
「ハハッ!ったく、食い意地だけは相変わらずだよな」
ほら、行くぞと海司は言うと、私の手を引いてショーケースの前に立った。
「うわあ…!」
様々な色、形、デコレーションされたケーキを前に、私は目を輝かせた。
「本当に好きだな、ケーキ」
「甘くて美味しいじゃない。まあ、海司にはわからないだろうけど?」
「俺だって少しはわかるよ。甘子みたいにガツガツ食えないけど」
「ガツガツなんて食べてないよ!」
ショーケースを挟んで私たちを見ている店員さんが、声を殺して笑っているのが見えた。私たちはお互いを突きながらもう一度ケースの中を見た。
「どれも美味しそうだね」
「だな。で、どれがいいんだよ」
「急かさないでよ。んーと…ていうか、海司は食べないの?」
「俺?そうだな…」
訊ねると海司はじーーっと見始めた。苦手とか言っているけど、本当はけっこう食べるのにね。
「俺、これがいい」
「え?」
海司が指差したのは、苺のミルフィーユだった。
「美味しそう!じゃあ、私もこれ」
「他には?」
「え?1つでいいよ」
「足りないだろ。もう一つ買え」
「ええ!?えーと…、じゃあこれ」
そう言ってもう1つ選んだんだけど…結局4つ買ってくれた。
これとは別に、海司は
「姉貴たちにも買っていかないと、何言われるかわかんねえ」
と言ってさらにケーキを買っていた。
お姉さんたちの分も、だなんて海司は本当に優しい。
会計をしている海司の背を見ながら、私は心がほんわかと温かくなっていた。



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