小説 | ナノ





Cappuccino


catered by かゆれ


「お待たせ致しました。モンブランとストレートティーでございます」

「わぁっ、美味しそっ…」


私はいつものように歓声を上げそうになって、慌てて口を閉じた
目の前の席に座る後藤さんは、薄目で私を見つめていたが…


「好きなんだろ?構わない」


投げやりな口調とは裏腹の、優しげな声と共に、後藤さんの目尻に皺が寄り、少し頬が緩む

「はい…、ごめんなさい」

「ぷっ…だから…」


今度は横を向いて、露骨に吹き出した
組んだ脚を通路に向けて居るため、後藤さんの少し斜めの輪郭は凄くシャープだ
その鋭さと対比する笑顔が、とても眩しい
私は何度も目を瞬かせた


「素直に喜べよ。好きなんだろケーキ」

「はい!大好きです…あの…」
「うん?」


後藤さんに上目使いで恐る恐る切り出してみる
私を見下ろす後藤さんの声はいつもより優しいので、私は思い切って言ってみる


「後藤さんのカプチーノ遅いですね?」

「え?あ、ああ…」


後藤さんが私から視線を反らして横を見つめる
その白い頬が少し赤くなっていて、私は小さく微笑んだ





『ケーキが旨いらしい』


後藤さんが郊外の水車に連れて行ってくれた帰り、
立ち寄ったのは口コミ情報のカフェだった
ケーキセットを頼んだ私
後藤さんは暫く躊躇っていたけれど


「…カプチーノを」


と飲み物だけをチョイスした


「…後藤さん、コーヒーじゃなくて良いんですか?」

「ああ」


後藤さんは、何故かブラックコーヒーしか飲まないイメージが私にはあった
だから、カプチーノのチョイスがとても意外

何度も首を傾げて後藤さんを見つめていると、少しだけ頬を赤らめた彼がすっと顔を近付けてきた


「!」

「コーヒーよりカプチーノの方が、熱くないんだ」


後藤さんの息が耳に掛かり、私は思わず躰をすくませる


「何だ?」

「あ、いえ…」


私の態度に怪訝そうに眉を潜める後藤さん
私は火照った顔を隠すために席を立ち上がった


「ちょっと、後藤さんのカプチーノを聞いてきますね」

「おい!」


後藤さんは最近、東京に残る小さな自然を見せに私を連れて出してくれる


「約束したからな」


誘われて、恐縮しながらも頷くと、後藤さんは必ず横を向いてぶっきらぼうに呟く

私の緊張を解いてくれるために連れ出してくれているのは解ってる
なのに、私の後藤さんに対する想いは膨らむばかり

けれど…

事件に巻き込まれて命を落とされた、彼女さんを
後藤さんは、想ってる

そんな後藤さんが私は…

考え込みながら厨房にさしかかると…
丁度、後藤さんのカプチーノが最後の仕上げに差し掛かっていた

泡立った表面にシナモンパウダーで絵を描く、カフェアート


「あ、あのっ!」


私は思わず、バリスタの女性に声をかけてしまった


「…どうしよう…」


カプチーノのトレイを掲げたまま、私は途方に暮れていた

バリスタの女性は快く私の願いを聞いてくれたのだ


「この方が、コントラストがはっきりして判りやすいわ」


と、シナモンパウダーにココアパウダーまで混ぜてくれた
そんなパウダーで、カプチーノの表面に描いた私の想い…


「もうすぐバレンタインだしね。頑張って」


バリスタの女性はカプチーノの受け皿に小さなチョコを載せると、私を笑顔で送り出してくれた
だけど…

私の想いは、後藤さんには重いんじゃないかって思い始めて、唇を噛む
嫌われるくらいならまだ、こうして友人の端くれとして扱ってくれた方が余程いい


「やっぱり止めよう」

「何を止めるんだ?」

 
バリスタの女性に謝って、カプチーノを入れ直して貰おうと決めた途端、肘を掴まれ後藤さんが私を覗き込む


「何やってたんだ。心配するだろうが」

「あ、ご、ごめんなさい」


後藤さんの心配気な瞳が、いきなり至近距離に迫って
私は慌ててしまい、トレイのバランスを崩す


「きゃ」

「っと」


傾く私の躰を右手で、滑ったトレイを左手で器用に支えてくれた後藤さんは、大きな溜め息をついた


「自分の面倒も見れない女が、妙な手伝いをするんじゃない」


後藤さんは私を支えながら、トレイに何気なく目を落とした


「!」

「あ!」


カフェアートのメッセージが直接後藤さんの目に止まる
私は恥ずかしさと気まずさで、後藤さんの手を離れて俯いた


「…」

「あ、あの、ごめんなさい」


突然、後藤さんが私の手首を掴む
トレイを持ったまま大股でカフェを横切る
自席に戻りながら、全身で拒否のオーラを発している後藤さんの後ろ姿が、涙で滲む

こんなことなら
やるんじゃなかった…

後藤さんの厳しい言葉を予想して自席の横で私は立ち竦む


「座れよ」

「あ、あのっ」





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