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Banana-Muffin




『やめろよ!』



気がつくと、クソガキを一人突き飛ばしていた。
俺よりも一回りも縦にも横にもデカいやつ。



『お前なんだよ!』



柔道やってたけど、さすがに俺よりもずっと体はデカいし、人数も多いし、適わないことなんて、目に見えていた。けど…



『海司…』



俺の後ろに隠れ、不安そうにきゅっと背中を掴む甘子。



『大丈夫だから。』



たぶん、大丈夫。





『お前!』

『…お前じゃねえよ、秋月海司だよ。てか、だせえんだよ、寄ってたかって女一人いじめて』



なんとなく忘れてたけど、この時からだろうな。
こいつを守ってやろうって思ったのは。



『年下のくせに生意気なんだよ!』



軽く突き飛ばされて。蹴られて。

道場の先輩や師匠に技をかけられてる、と思えばそんなに辛くはなかった。



でも、きっとあいつ、悲しそうな顔してるだろうな…






結局、甘子が通りがかりの…、運がいいんだか悪いんだか…。下校中の姉ちゃんたちに助けを求めていた。



『うちの大事な弟になにすんのよ!キー!』

『そうよ、そうよ!キー!』

『キー!キー!』



半ズボンのクソガキたちの急所を蹴り上げて。

たぶん、世界で一番怖いのは姉ちゃんたちなんじゃないかと今でも思ってる。






クソガキたちは姉ちゃんたちの同級生だったらしく、もう二度と甘子にも俺にも手をださないように約束をさせた、とか。



『秋月たちの弟だって知ってたら、絶対手を出さなかったよな』



とボソッと呟いているのが聞こえてきた。
やっぱり姉ちゃんたち、化け物だな、すげえ。










『海司…』

『甘子、大丈夫か?』

『わ、私は大丈夫だけど…、海司が海司が…』



すると、あいつ…、はじめて俺の前でわあわあ泣いたんだ。



クソガキに絡まれても、父ちゃんのこと言われてもずっと泣かなかったのに。

強いんだか弱いんだかわかんねえよな、甘子って。



『あわわ、泣くなよ、どっか痛いのか?』

『…海司が、死んじゃうかと思ったよ』





『馬鹿、死なねーよ。俺、つえーもん。』

『…本当?』

『いや、嘘…。今は弱いけど…。でも絶対強くなるから。』

強くなって、お前のことずっとずっと守るから。

『うん!』



まあ俺の初恋はこのあたりから始まったんだろうな。



もうすぐ衝撃的な引っ越しという名の大事件が起こるわけだけど…





まだ時間も早かったし、甘子も連れて姉ちゃんたちに無理矢理連れられるように家に帰ってきた。

3馬鹿にさっきのケンカのことでクソ怒られるかと思ってたけど、甘子が遊びに来たことで三人とも浮かれまくってて。

母ちゃんがちょうどいなくて、3馬鹿が作ってくれたバナナマフィン。
それはそれは、美味しくなんてなかった。

でも、甘子は美味しい美味しいって嬉しそうに食べてたんだ。




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