クマとウサギと、チキンピラフ。 「…プライベートな事です」 「あっそ…でもな、マルタイが情緒不安定だと、仕事やりにくいんだよ」 ハンドルに肘をついて、昴さんが言う。 「…昴さんは、お昼に誰かからお弁当もらったりしますか?」 「しょっちゅうだな」 「か、海司も…もらってるんでしょうか」 「飯の時間はバラバラだから分からねぇけど、あいつは受け取らねーだろ」 「………う、受け取ったみたいなんです」 つい、涙声になってしまった。 「…本人が言ったのか?」 私は首を振った。 信号が青に変わり、昴さんは車を走らせた。 「お姉さんたちが、海司が可愛いお弁当箱、洗ってるの見たって…」 「………柄は?」 「え?あ、ウサギの絵が描いてあったらしいです」 「ウサギさんねぇ…」 昴さんは、右手で口許を覆い、何か考えるように呟いた。 もしかしたら、誰か心当たりがいるのかな? でも、それがどんな人か聞く勇気は、私にはない。 「私…海司にお弁当の差し入れするどころか、最近、全然ご飯も作ってあげてなかったし…」 「…メイク落ちるぞ」 ポン、と膝の上に何かが乗った。 白いハンカチ。 「ありがとう、ございます」 グスッと鼻をすすって、いつの間にか零れていた涙を拭いた。 「…今日の式典の後、海司が上がったら、うちで晩ご飯を作ってあげる約束したんですけど…私、相変わらず料理下手だし」 気付けば、車は渋滞にはまっていた。 「桂木さん、昴です」 昴さんがインカムで通信する。 「渋滞の為、予定より送れます。………大丈夫です、間に合わせます」 珍しいなぁ、と私はぼんやり思った。 都内の渋滞箇所なんて、知りつくしているはずの昴さんが。 あ………私が、変な話しちゃったから、運転に集中できなかったかな? 「すみません、昴さん」 私は小さくなって俯いた。 ふ、と昴さんは息で笑って、 「…お前って、ホント自分で自分を追い詰めるタイプだよな」 私の頭をポン、と押さえた。 |