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クマとウサギと、チキンピラフ。




「おい甘子、なんだそのでっかいため息」

「え!?…あ!すみません!」

「オレが警護でそんなに不満か?」

「ち、違いますよ!」

無意識のうちにもらしたため息は相当大きかったらしく、私は慌てて否定した。

「はは、それはそれで秋月の立場がねぇな」

私を運転席でからかうのは昴さん。

「私、そんなつもりじゃ…」

敵わないなぁ…、と私はまたため息をつく。



式典に出席するため、会場に向かう車の中。

アパートまで警護車で迎えに来てくれたのは今日警護をしてくれる昴さん。

むしろ、海司じゃなくてホッとしていた。

どうせ会場では、顔を合わせるけど…

「たく、冗談だろ。で、何だったんだよ、さっきのため息」

昴さんは始めから前を向いたままだけど、私がどんな顔をしたのか、まるで見えてるみたいに優しく言った。



うーん…どうしよう。



「あの、私…実は警護車の臭いがダメで」

「…へぇ」

「み、みんな新車みたいな臭いしません?ゴムみたいな」

「…真壁が毎日、無臭タイプの消臭スプレーしてるからな。全車に」

「そうなんですか?」

「ああ、要人ごとに臭いの好き嫌いがあるからな。あえて無臭にしてあるから、車の匂いだけするんだろ」

「大変ですね、真壁さん…」

「オレだって、ホントはローズ…」

「え?」

「いや…何でもない。それより、警護車の臭いがダメだなんて、今更だな。…甘子、妊娠でもしたか?」

「に、妊…!?な、何でですかっ!」

「知らないのか?妊娠したら味覚や嗅覚が激変するって言うぜ」

そうなんだ…と素直に関心を持ちかけ、ハッとする。

「し、してないです妊娠なんて!」

「………」

沈黙する昴さんの横顔に何故か威圧感を感じ、私は、確かめるように自分のお腹を見下ろした。

「………た、多分」

小さく言うと、

「アハハ!お前、ホント面白ぇ」

昴さんのイケメンらしからぬ豪快な笑い声が私につき刺さる。

これだけ笑ってても、ハンドルが全くブレてないのはすごいけど…

「もう、からかわないでください!」

私は叫び、プイと赤くなった顔を助手席の窓に向けた。

「悪かったよ。お前も秋月も、ホントからかいがいあるからな、つい」

「…からかうのは、海司だけにしてください」

「ま、それはどっちかっつうと、そらの担当だから」

言いながら、昴さんは赤信号で車を停める。

「で、本当の理由は?」

車に乗ってから初めて、昴さんが私を見た。








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