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キャラメルマキアートを飲んだら…


catered by


ふぅ〜と唇からこぼれるため息とともに白い息が見えた。
私はマグカップをゆっくりテーブルにおいた。
暖かい部屋の中膝をかかえ頭を膝の上におく。
そしてそっと目をつぶった…。
そうして思いうかぶのは愛しい…恋人の顔…。
いまどうしているかな?何をしているの? 何を見ているの?
私が思っているようにあなたも私のことを思ってくれているかしら?
次の瞬間、苦笑にも似た笑みが口からこぼれでる。そのときかすかに匂うさきほど飲んでいたキャラメルマキアートの匂い…。
あの人と会うときメニューにあるといつも選んでしまう私の大好きなキャラメルマキアート。
いつも同じだと笑われたこともあった…。
そうして私はまた目をつむる。
あなたの笑顔が好き…ううん、笑う顔だけじゃなくなにげない仕種もなにもかも大好き。
ただ側にいてくれるだけでよかった…。
笑いかけて話しかけてくれるだけでよかった…。
でも心はさらにさらにと望んでしまう…。
でもね…。
そっと体を起こす。
求めて求めた先にあったものを私は手に入れたの。
ううん授かったの。
お母さん…。
いまどうしようもなくお母さんに会いたい。
お母さんは私を授かったとわかったときどんな気持ちでした?
怖かった?それとも嬉しかった?
そのさきにあるものが決して幸福だけではないとわかっていても私のことを喜んでくれましたか?
私を生んでよかった?
お父さんに私のことを知らせることもないままお父さんの前から姿を消しお父さんと再会することもないままでお母さんは幸せでしたか?
この問いかけはお父さんと再会してからずっと胸に抱(いだ)き続けた思い…。決して答えの返ってくることはない問いかけ…。
でもね違った。
答えはあったの…自分の中に…。
いま愛しいあのひととの命をこの身に授かってわかったの。
お母さん あなたは不幸ではなかったのですね。 あなたにとってお父さんと出会えた人生は出会わなかった人生より何倍も幸福なものだったのですね。
今は私にもわかる。
同じだから…。
だからお母さん、私にもう少しの勇気をください
これからこのことをあのひとに伝えようと思うの。あのひとはまさに命を危険にさらす仕事についている。
いつ命を落としてもおかしくない。
だからこの知らせを喜んでくれないかもしれない…。その端正な顔を曇らせてしまうかもしれない…。
もしかしたら…。
そのさきを考えると今まで怖くて言うことをためらってきた。
でもねお母さん。生きているからこそこうして怖いと思うこともできるの。そして命を授かることもできた。
ならば伝えてみようと思うの。
怖い考えかもしれないけどもしかしたら明日には…ううん、いまこの瞬間にも危ない目にあっているかもしれない…。
同じ後悔なら言わないより言って後悔したほうがいい…。
そう決めると私はすくっと…すぐに思いなおしてゆっくりと立ち上がった。
鞄を持って踵の低い靴を選ぶ。
そうして家を出ようとしてふと誰かに背中をおされたような気がしてふりむく。
けれどそこにはテーブルの上にかすかな湯気をたてているキャラメルマキアートが入ったマグカップがおいてあるだけ…。
気のせい…よね…?
私は思いなおして部屋に出た。
あのひとにこのことを伝えるために…。


主のいなくなった部屋におかれたマグカップからあがる湯気がほんの一瞬…そうまるで人が息をふきかけたようにゆれたことは誰も知らない…。




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