小説 | ナノ


2.Much better than an (other) 01

※暴力的な表現があります。







炎の爆ぜる音があたり一帯を取り囲んでいる。
さっきまで聞こえていた悲鳴は今もう聞こえない。
この場所からは逃げなきゃいけない。


走って、走って、たどり着いた先に懐かしい女の人の姿が見える。

声をかけようとする前に、
その女の人は泣きながら私に向かって叫んだ。


−−−神に仕える立場で、悪魔と名のつくものに、
あなたを託すことは許されないのかもしれません。
でも!!!
あなたは必ず生きて!!!ショウト!!!!!−−−



「シスター!!!!……ッ!!」


叫びながら思い切り上半身を起こそうとした時に、全身に稲妻が走る様な激痛を感じ、息が詰まった。


はぁはぁと息を整えながら、ベッドに身体を横たえたまま周りをゆっくりと見渡すと見慣れない医療器具や薬品が目に入る。


夢見が悪いことと身体の痛みで思考がまとまらないが確か自分は男たちに追われていた筈だったと、どうにかショウトは必死に記憶を呼び起そうとした。





ベポちゃんを船へと送り届けた翌朝のこと。
昨日買えなかった卵を買いに街で買い物をした後、小屋に戻ろうと森の中を私はトボトボ歩いていた。

「はー…。海賊船だとは思っていたけど…あんな大物の船だとは思わなかった…」

ショウトは以前見たことのある手配書を思い出しながら、昨日の出来事を思い出す。

なんとなくジョリーロジャーが描いてある船だなとは思っていたが、それがあんな大物ルーキーの海賊が掲げるものだとは露も知らなかった。


目の前の怪我をした熊を助ける為に必死で、どう考えても考えなしだったと自分の無事を安心しつつも反省しながら昨日の出来事を思い出していたショウトはハタと足を止めた。


大きな男が2人小屋の中の様子を注意深く伺っていからだ。


見つかる前にその場を立ち去ろうとショウトが後ろを振り向いた時に、手に持っていた籠が木にぶつかって音を立ててしまった。

やっちゃった…とショウトがサッと青ざめた時にはすでに遅く、男たちはショウトをその視界に入れていたようで、声を上げながらこちらへ向かってくる。


戦闘は得意じゃ無いのに…と軽い恐怖さえ感じながら能力を使い、男たちの足元に小さな翼を生えさせ足払いをかける。

足を取られて転びそうになった隙に、男たちの懐に身体を落として入り込み、ズアオチメドリという毒鳥の神経毒を含んだ羽根をナイフのように生成し男たちの首元へ切りつけた。

すぐに神経毒は回ったようで、その場に男2人をなんとか倒すことが出来た。


それに安堵して判断が鈍ってしまったのかもしれない。
とにかくこの島からは脱出しなければいけないと、いつ"あの場所"から追っ手がかかっても逃げ出せるように普段から荷物をまとめてあるバックを取りに小屋へ戻ったのが間違いだった。


小屋に入った時に、背後から3人目の男に頭を殴りつけられた。


一瞬意識が飛びそうになるが、目の前の机に置いてあった花瓶を咄嗟に掴み振り向き様に男の頭を殴りつける。

距離を取ろうとそのまま男の顎めがけて脚を蹴り上げ、その勢いのまま後ろに下がった。
その瞬間、軸足にしていた左足に熱を持った鋭い痛みが走る。


−−撃たれた?!


銃口の向きを確認しようと男の手元に目をやるが、人差し指をこちらに向けているだけで銃は持っていなかった。


続け様に男はその場所から脚を素早く振り抜く。

背筋にゾッと冷たいものを感じたショウトは咄嗟に横へ転がって攻撃を避けると、今までショウトが立っていた後ろにあった棚がかまいたちに巻き込まれたかのようにズタズタになる。

一体何の技だとその威力に青ざめるも、男から目を離してしまったと、サッと男の方へ視線を向けるが、時すでに遅く男は急激に距離を詰めてきていて、その勢いのままショウトの腹部を殴りつけ床に叩きつけた。


「ぐっ…かはっ」
胃が熱くなり、口の中に鉄の味が広がる。


「ボスからお前は飛んで逃げることもできるから、海楼石の錠で拘束するか、十分に痛めつけろと言われている」

男がショウトを冷たく見下ろす。


「……海楼石の方が良いわね」

口から血が流れてるのを無視して苦し紛れに口角を上げて応える。ゴプりと口のなかで血が泡立つ感覚がなんとも不快で堪らない。


男は何の容赦もなくショウトの腹部を蹴り上げた。

ゴロゴロと勢いづいた身体は転がって壁に打ち付けられる。身体を打ち付けた拍子にヒュッと喉の奥が鳴り、息が止まりそうになった。


男が近づいてきてショウトの顎を掴み、顔を持ち上げて愉快そうに言い放った。


「あいにく、持ち合わせがなくてな」

ショウトはなんとか男と視線を合わせると、せめてもの抵抗のつもりで口一杯に広がる血を男の頬に吐き捨ててやった。


それに激昂した男がショウトの顔を殴りつける。

チカチカと目の前に火花が飛んだが、さらに2発目が来ることを感じたショウトは咄嗟に右腕で顔をかばう。殴りつけられた右腕の骨がミシミシと嫌な音を立てた。

それ以上顔は殴られなかったが、背中を丸めて身体を守りながら何度も殴られたり蹴られたりしているうちにショウトは意識を手放していた。




*******



あいつらに捕まったのか、と思案していたが自分の身体を見る限り手当てが施されているようだ。
一体私はどこにいるんだろう…?と考えあぐねていると、徐に部屋のドアが開いた。


「目が覚めたんだね!良かった!」
白いツナギを着た女性が入ってきてそう言った。


「あなたは…?」

「私はイッカク。キャプテンがあんたを連れてきた時は本当にびっくりしたけど、意識が戻ってよかった。怪我は酷かった見たいだけど…その、…暴行はされていなくて少しホッとしたよ」

ここには女は私しかいなかったから、私が確認したの。悪いね。そう言いながらイッカクは手に持っていた包帯やガーゼを机に置くと、キャプテンを呼んでくる。とさっさと部屋を出ていってしまった。



キャプテン…?
白いツナギ…?
しかも見覚えのあるジョリーロジャーを、今のイッカクという女性は背負っていた。


最近見聞きした覚えのある単語やマークからある可能性が思い浮かび、まさかまさか…と血の気が引いてくる。


数刻しないうちに部屋に入ってきたのは、
そのまさかの人物であった。

「トラファルガー・ロー…」

「俺の名前は知っていたようだな、アグリーダック・ショウト」

ニヤリと片方の口角を上げながら、ショウトを見下ろして不敵な笑みを浮かべるのは、
今や最悪の世代と呼ばれるルーキーの内の1人、トラファルガー・ロー本人だった。


一体何がどうなってこの海賊船のベッドに自分は寝ているんだろうと理解が追いつかない。
目の前の出来事に私はズキズキと痛む頭を抑えた。

「…私のことをご存知なんですね……」

アグリーダックと言う忌々しい名前までご丁寧に付けて呼ばれたことが殊更不愉快だった。
私の通称としてついて回る"醜いアヒルの子"を意味する名前。


そんなことを考えていると、ドアがバン!と思い切り開け放たれた。

「ショウト…!!」

大きな声を出して部屋に入ってきたのは、
これまた昨日ぶりに会うベポちゃんだった。

ショウト、目が覚めて本当に良かった…!と部屋に入ってきた勢いのまま、感極まった大きな身体が抱きついてきた。
容赦ない抱擁に全身に思わぬ痛みが走ったところで、ベポちゃんが泣いていることに気づく。


「ベポちゃんも、怪我が良くなったみたいで良かった」

それだけ動けるならもう大丈夫そうだと感心しながら、彼を安心させる為に痛む身体をなんとか動かしてベポちゃんの肩を叩き、そう言葉をかける。

ショウトの方が重症なんだから、そんなこと言うなよー!!とさらに泣きながら抱きしめられた。
あれ、逆効果だったか。

ベポに抱きしめられてすごく嬉しい気持ちはあるのだけどそろそろこの状態をなんとかしなければいけない。

痛みからくる脂汗を流しながら思ったが、
こんなに自分のことを心配してくれる相手がいるなんていつぶりだろうかと、じんわり心が温かくなる。

痛みと胸の奥が温かくなる感覚をじっと感じながらショウトはまた意識を手放した。

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