小説 | ナノ


03

医務室の椅子に座らされて、ショウトが一度巻いてくれていた包帯を外し、手当てされた傷の処置をキャプテンが確認する。

キャプテンが言うにはどうやら最低限の処置は施してあるらしく、傷の程度が深い場所のみ2、3針縫って消毒し包帯を巻き直してくれる。

相変わらず、手早く正確な手腕だとベポは尊敬の念を抱いてその作業をじっと見た。


最後に左足の捻挫もテーピングで固定すれば、傷の手当てはすべて完了した。


「キャプテン、ごめんね」

心配をかけた上にを怪我までしてこうして手を煩わせてしまった事実に、ベポの大きな身体はどんどん萎んでいく感覚に襲われた。
申し訳なさに顔を上げられず、せめて小さく謝罪の言葉を呟く。


キャプテンの役に立ちたかったんだと悔しい気持ちを隠しきれずに言葉を続けると、使っていた医療用品を棚にしまっていた彼が視線だけでこちらを見たのが分かった。


「…随分と親しくなったみたいだな」

ローには毛頭ベポを責める気など無かった。
怪我をしたことについては叱責したい気持ちもあったが、クルーや自分の為になりたいと思って薬草を摘みに行った心意気は買ってやりたいと思っていた。

いつまでも縮こまって気まずそうにする目の前の白熊に、使ったテープやガーゼを仕舞いながら謝罪は終わりだと話題を態と変える。


あの羽を生やした女、ショウトと言ったか…と、続けるとベポは顔を上げて明るく話し出した。


「そうなんだ!聞いてよ、キャプテン!
おれが喋ってもショウトは何も気にしなかったんだ」


そんな人間初めてだよ!とベポは先ほど感じた嬉しい気持ちを思い出す。


小屋についてすぐ、意識を取り戻したベポが話したことに最初は驚きの表情を見せたショウトだったが、

ーーグランドラインなんだから、喋る白熊が居てもおかしくないっかーー

と一言呑気に呟くと、気さくな笑顔を見せながらベポの不安を取り除くために、彼女の名前を教えてくれて傷の手当てをしてくれた。


今までに会った人達は熊が話したことに驚いて指摘してくる人間ばかりで、打たれ弱いベポはすぐに謝罪を口にしてきた。

そんなベポにとって、ショウトの反応はとても新鮮で彼女の屈託のない笑顔が何よりも印象的だった。



そんなベポの嬉しそうな様子に、ローは先程船に降り立った女の様子を思い出す。


海賊船だと指摘した時は何とも反応しなかった女の視線はローを視界に捉えた時に僅か数秒固まった。

おそらく死の外科医と言われる自分が乗船しているハートの海賊団の船だとは気づかずに、ベポに言われるがまま連れてきたのだろう。


ほとほと間の抜けたお人好しな奴だとローは細くため息をついたが、一方でこの繊細な熊を受け入れた彼女への興味とほんの少しばかりの好感を感じ、帽子の鍔の下で他人には気づかれない程度に自分の口角をつり上げた。




*******




翌朝ローは船から降りる為に甲板にやってきていた。
これからベポが一握り掴み取ってきた薬草を採取しに上陸をする予定だ。


昨日はこの島の本屋で手に入れた医学書の内容がどうしても気になり、すぐ船に戻って読書をしていたため薬草については後回しにしてしまっていたが、
ロー本人もこの島で採れる珍しい薬草には興味があった。

ペンギンたちから、街ではその薬草が品切れの状態だったと話をすでに聞いていたので、
彼はベポから薬草の自生する場所を聞き取り自分で採取に行く算段をつけていた。


船を降り、ベポから聞き出した場所を目指して森の中を進むと切り立った崖の上にたどり着いた。
崖の上から見下ろすと、崖肌のところどころに薬草が生えていることが確認できる。


断崖絶壁と言うわけでは無い様だが確かに厄介な場所に生えている薬草であり、足を滑らせれば昨日のベポの様に怪我をするのは間違いないだろう。

採取にはそれ相応の技術者も必要なものかもしれないが、自分には全く関係ないことだと大太刀を振るい、自分の能力で薬草と石ころや木の枝を交換しながら薬草の採取を続けていく。


ふと、眼下に森の中にある小さな小屋が見えた。
もしかしたら、昨日ベポを保護したあの女が住んでいる小屋かもしれないと考えを巡らせていた時、


小屋の扉が荒々しく開かれ、
中から男が3人ほど、何か荒々しく声を上げながら飛び出してきた。そのうちの1人は肩に何かを抱えて他の男たちに指示いる。


よく目を凝らして見ると、どうやら担がれているのは昨日の晩にハートの海賊団の船に降り立ったあの女だった。


白い両腕がダランと力なく垂れていることから、意識を失っていることが分かる。


3人とも左肩に、闘牛の角が生えた、歯を見せて笑う仮面の入れ墨を入れていることは多少目新しいが、どう見ても人攫いの集団であることは間違いないだろう。


不幸な女だ、と無視することも出来たが
昨晩みたベポの嬉しそうな顔を思い出したからか、それとも元々彼が持つ医者としての性分か。

これを無視した暁には自分の心にしこりを残すような感覚を覚える気がして、内心舌打ちをしながらローは崖を飛び降りた。



「"ROOM"」


自身の能力で青い透明なサークルを作り出すと、まず自分と石ころの位置を替え、地面に着地するとそのまま女と木の側に落ちていた枝とを入れ替え男から奪取する。


肩に抱えていた女が急に居なくなったことに驚いた男がこちらを振り返り、何者だと声を荒げるが答えてやる義理はひとつも無いとローは無視をした。

代わりに愛用の大太刀である鬼哭を鞘から抜き取る。

他の男たちも異常事態に気付き、それぞれの武器を手元に構えるが、それももう遅いとローはほくそ笑む。

「気を楽にしろ」

一言だけ声をかけてやるが、すでに男たちの身体はバラバラになって宙に浮いていた。


急に変わった視界と体の感覚に驚きを隠せない男たちの声が上がり、自然とローの口角が上がる。


だが1人だけバラバラにならずにサークルの外に咄嗟に逃げていた男がいた。
こいつだけは手練れなのか、とバラバラにした男たちを適当にその辺の木やバラバラの手足、胴体にくっつけて男に向き合う。

男が素早く脚を振り抜くと、かまいたちが発生しこちらに向かってくる。


随分と手誰に誘拐されたもんだ。
詳しく知っているわけではないが、この格闘術は政府の諜報機関や海軍の一部の人間が多用する技だったと記憶している。


ただの人攫いでは無いようだが何だってそんな奴に追いかけられているのか。
疑問が浮かぶが、まずは肩慣らしができそうな相手に好戦的な笑みが浮かぶ。


男が高速に詰め寄って指銃を繰り出したのを、ローは体術のみで躱し少し体勢を落とす。男の胸部めがけて両腕を伸ばし親指を立てた。


「"カウンターショック"」




倒した男たちを能力で再度バラバラにした後鬼哭の鞘を回収しながらぐったりと倒れて意識のない彼女の元へと歩み寄る。


横たわる彼女の姿を見て、思わずローは顔を顰めた。


倒れている彼女の外傷があまりにも痛々しい。


頭からは血を流し、顔を殴られた後が見える。
内臓も痛めているのは口から流れている血からも判断が簡単につく。
足首はきつくロープで縛り上げられている。
あまりにも過剰な暴力と拘束だ。


あまりの痛々しさに流石の彼も放っておくことができず、ひとまず船に戻って怪我の手当てをしてやろうと、彼女を抱き上げた。

ショウトの首にかけてあった黒い羽根を小瓶にいれたネックレスが、ゆらりと揺れて光を受ける。


それを目の端で捉えながら、昨日見た彼女の優しげな微笑みが彼の脳裏に浮かんでは焼き付いて、どうしても拭い去ることが出来なかった。

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